技術開発ニュース No.169

- ページ: 4
- 巻頭言
発明・技術進歩・技術革新・
イノベーション
野田 英智
Hidetomo Noda
専務執行役員
技術開発本部長
Chief Technology Officer
Chief Standardization Officer
企業が世界の「イノベーション」を先導していると言われていま
す。また、中国は技術力向上に伴い、多数の特許を出願していま
すし、中国製の生成 AI である Deepseek が話題になりました。
それに対して、日本の企業からはイノベーションが生まれにくく、
発明や特許出願もなかなか増えないなんて声も聞かれます。
では、本当に、日本ではイノベーションが全く起こらなかった
のでしょうか。
戦後を振り返ってみると、日本の企業は先進各国の製品を真似
し、より精密かつ高品質で安価な製品を製造する力を付けて、日
本の高度成長を支えてきました。
身近なところで言えば、高度成長期に生まれたセイコーの
クォーツは大きな発明であり、徐々に安価で提供されるようにな
りましたし、1979 年に発売されたソニーのウォークマンは、人々
の音楽の聴き方を変えました。
また、ヤマト運輸は、個人宅配市場に参入し、効率的な配送
ネットワークを構築し、現在の宅配便システムの基盤を作り上げ
ました。
次に、バブル崩壊後の失われた 30 年から現在に至るまではど
うでしょうか。
いくつか事例を挙げてみます。
○メルカリは 中古品 CtoC 販売プラットフォームを提供。
利便性の高いアプリや QR コードを活用した発送システムで
市場を拡大し、新たな中古品 EC 市場を創出しました。
○富士フイルムは、写真フィルム市場の縮小を予測し、化粧品
や医療機器分野へ技術を応用。異分野へのシフトで成功を収
めました。
よく調べたら、もっとあると思います。少なくとも、
“日本で
はイノベーションが起こりにくい”という見方が正しいのか、疑
問に思うこともあります。
一方で、シャープのザウルスというガジェットのように、次代
を先取りした技術が必ずしも成功するとは限りません。ザウルス
は、現在のスマートフォンでできることの多くを、20 数年前に
実現していましたが、スマホの様に世界的なイノベーションを起
こすには至りませんでした。イノベーションには、時代やタイミ
ングも大切な要素なのだと思います。
現在の日本には、発明・技術進歩・技術革新の繰り返しで実力
を蓄えている企業、団体、研究機関は幾多もあり、今はそれがイ
ノベーションという形で表出していないだけで、数年経った際に
大きなイノベーションを起こすものが出てくるかも知れません。
これからの時代は、地球(環境・生態系)と人間の共存共栄を
常に意識し、地球の環境を守りながら、人々の生活をより充実
させていく時代に向かっていくと思います。例えば、カーボン
ニュートラル一つとっても、実現するためには、社会的、技術的
に大きなイノベーションが必要です。
これまで述べてきた発明・技術進歩・技術革新のサイクル、そ
れから、この延長線上に有るかどうかは知れませんが新たなアイ
デアを付加したイノベーションが起こることを、いや、日本発の
イノベーションを起こすことを想像しながら、研究開発に励むの
も、また楽しいのではないでしょうか。
PREFACE
「発明」とは、従来みられなかった新規の物や方法を考え出す
ことです。特許法では、発明は「自然法則を利用した技術的思想
の創作のうち高度なもの」と定義されています。
「技術進歩」とは、科学技術や工学の分野で新しい知識や技術
が発展・改良される過程を指します。これにより、社会や産業に
おける効率性や利便性が向上します。
「技術革新」とは、新しい技術や改良された技術、システム、プ
ロセスを創造・導入することで、社会や経済に大きな変化をもた
らすことを指します。これにより、生産性の向上、新市場の創出、
環境問題への対応などが可能となります。なお、
「イノベーション」
とは異なり、技術そのものの進歩に焦点を当てる点が特徴です。
最後に、
「イノベーション」とは、モノやサービス、ビジネスモ
デルに新しい考え方や技術を取り入れ、新たな価値を創出し、社
会に変革をもたらすプロセスを意味します。これは単なる技術革
新にとどまらず、既存の製品やサービスの改善や全く新しい市場
の開拓も含まれます。私見ではありますが、イノベーションの結
果は企業の業態の大幅な変化をもたらすものもあれば、私たちの
生活様式の大きな変化などに現れてくるものもあると考えます。
なお、現在、
「イノベーション」は、企業にとって成長や競争力を
維持するために不可欠な要素と捉えられています。
一般的な定義に鑑みると、「発明」から「イノベーション」ま
での間には、かなりギャップがあるようにも感じますし、もし
かしたら意外と近しいものかも知れません。「発明」「技術進歩」
「技術革新」
「イノベーション」はシリーズとして起こることもあ
れば、そうでも無い場合もあるようです。
電気事業を振り返ると、日本の旧一般電気事業者が創業してか
ら 70 年を超え、現在では、世界でもトップクラスに短い停電時
間を実現し、高い品質の電気をお客さまにお届けしています。こ
れは、電気事業者として、お客さまのニーズをお伺いしながら、
先人達の日々の研鑽に加え、重電・重工機器メーカーと機器ユー
ザーである電気事業者の発明、技術進歩、技術革新の繰り返しで
成し遂げられてきたものだと思います。
(一方で、ビジネスモデル
自体は 70 年を超えても大きく変わっていないことも事実ですが。
)
正直、日本には世界に誇れる技術(進歩や革新を含む)が未だ
多く存在すると考えています。
例えば、素材分野や生産技術、生産ロボット、故障の少ない自
動車など、日本は高品質な製品を作る技術において世界トップレ
ベルです。また、これらの技術は世界的に見ても相応の市場を有
しています。
これは、これら企業の方々が発明・技術進歩・技術革新のサイ
クルを繰り返し、努力を重ねた結果であり、将来に渡って日本が
自信をもって自慢できるところだと思います。
一方、近年では米国の GAFAM ※を中心とする企業やベンチャー
※ Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft の頭文字を取った呼び名
技術開発ニュース 2025.03/No.169
4
- ▲TOP