サステナブル事例
Sustainable Case study

SUSTAINABLE

Vol 05
水力発電が抱える課題を、
AIの活用で解決へと導く

【事例】
水力発電計画へのAI活用

高まる電力需要に備え、
熟練依存からの脱却を。

再生可能エネルギーの利活用は、脱炭素社会の実現に必要不可欠です。中でも水力発電は、資源を国内でまかなうことができ、これまでも安定的に運用されてきたこと、そして発電時にCO2を出さないクリーンなエネルギーであることなどから、今後のさらなる活用が期待されています。しかし、水力発電の運用には、ダムへの水の流入量を予測したり、翌日の天候や水位を予測したりしながら発電計画を策定し、発電量および売電金額の最大化を目指すといった高度な技術と知見が必要となります。中部電力では、明治期以来の長年にわたる水力発電事業を限られた人財のみで運用してきたため、その技術継承は課題となっていました。また将来の電力需要の変化に臨機応変に対応していくためにも、現在多くの時間を要する当該業務を効率化することも、解決すべき課題の一つでした。そこで、中部電力グループは、水力発電所における最適な発電計画の策定にAIを活用してサポートするシステムを開発。水力発電の増電・増収を図るとともに、人財育成や業務の効率化といった課題の解決にも役立てていこうと考えました。

技術と経験をAIが学習し、
目的に合わせた発電計画を策定。

中部電力グループ管内には、大規模で複雑な飛騨川水系があり、ダム14カ所、発電所22カ所、総出力約115万3千kWを誇る日本有数の水力発電地帯となっています。この飛騨川水系へのシステム導入により、これまで熟練のスタッフが経験やノウハウに基づき毎日4時間程度掛けておこなっていた発電計画の策定業務を効率化するとともに、過去の発電計画の蓄積や、流入量予測に必要なデータをAIが学習することで、既存技術の継承に役立てていきます。なお本システムは(1)ダムへの水の流入量を予測する「流入量予測AI」、(2)翌日の天候やダムの水位などの予測情報をもとに過去の発電計画から類似のものを検索する「過去検索AI」、そして(3)ダムの水位や業務上の運用制約を基に売電金額最大などの目的に合わせて発電計画を算出する「最適化AI」の3つのAIで構成されており、システムの出力結果に基づいて運用者が発電計画を策定します。これまで培ってきた人の技術は、流入量予測AI、最適化AIといった、機械学習を活用するシステムによって置き換えられています。ベテランスタッフにも1~2年かけてヒアリングをおこない、いままでの運用をそのまま再現するのではなく、状況に応じたフレキシブルな運用を検討できるものへと作り込んでいます。

複雑な水系だからこそ、
他にはないシステムへ。

本システムの導入は、複雑で緻密な計算と長年の経験を必要としていた従来の策定手法が大幅に効率化されるだけでなく、一部の熟練スタッフだけに策定業務を頼ることも解消しました。さらに、増電としては、飛騨川水系での例年の発電量に対し、約2%程度、約3,000万kWhの増電が試算で見込まれています。これは標準的な家庭約1万世帯分の年間電力使用量に相当します。また、人が計算すると4時間ほど掛かっていたものを、計算自体は約30分程度にまで短縮。そこから人の手で調整や微修正をおこない、より運用のしやすい最適な計画へとブラッシュアップしていきます。こうした水力発電AIは他の電力会社でも導入されていますが、当社が他と異なるのは、複数の発電所・ダムを、飛騨川水系と馬瀬川水系という複数の水系で同時に最適化しているところです。それぞれの川をまたいで水をやりとりし、二つの水系全体で最適化を図る進歩したシステムです。

水力×AI×人の知識で、
脱炭素化に貢献。

システムを導入し、実際に運用していくときに、その目的の一つとなるのが発電量最大化です。過去検索AIと最適化AIで計画を作るのですが、これらの答えは異なるものが出てきます。例えば最適化AIの結果が実運用では使いにくいと感じたとき、過去検索AIの結果を参考にする。AIが出した答えだから、発電量が最大だからと、そのまま使うのではなく、効率性・収益性・安全性のバランスを取って調整していき、人が判断をおこないます。判断者となる水力発電の運用に関する知識や技術を持った運用者の育成は、今後も引き続きおこなって参ります。
水力発電そのものは変わらなくとも、これまでとは違った運用が求められる。気象状況が変わる。電力業界が変わる。電力市場が変わる。そういう時代の中で求められる水力発電へのニーズに、私たち中部電力グループはこのシステムを活用して、柔軟に対応していきます。そして、CO2を排出しない水力発電の発電量増加に取り組み、脱炭素社会の実現に貢献していきたい、そう考えています。

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