技術開発ニュース No.168

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研 究 紹 介
Introductions of Research Activities
未来の医療を目指した細胞凍結保存に関する
共同研究
Joint research on cell cryopreservation for future medical care
~再生医療・創薬の発展を目指して~
再生医療は、細胞・組織など細胞製品を用いることにより、これまで治療困難であった
病気を治す可能性があるため、未来の医療として期待されている。再生医療をより身近
な医療にするためには、本来の機能を有した状態で細胞製品※を凍結保存する技術の開発
が欠かせない。そこで、当社は、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(以下
NIBIOHN)、株式会社菱豊フリーズシステムズ(以下菱豊フリーズ)と再生医療・創薬
の分野における細胞凍結保存の共同研究を実施している。
1
研究の目的・背景
当社は、これまで食材の美味しさを保ちながら強磁界下
執筆者
先端技術応用研究所
先端技術ソリューショングループ
森 秀樹
(2)凍結技術の再検証と凍結条件の最適化
次に開発した凍結機を使用して、スフェロイドなど、こ
れまでに成功している細胞等の凍結を再検証し、開発した
機器によって最適な凍結条件を見極める。
で冷凍する技術の研究開発を菱豊フリーズと共同で進めて
きた。一方、NIBIOHN は、菱豊フリーズ製の凍結機を使用
することで、従来困難であった神経の機能を有した細胞製
品をその機能を損なうことなく生きたまま凍結保存するこ
とを見出した。病気の種類によって治療に用いる細胞製品
第 2 図 細胞製品と医療への適用
は異なるため、それぞれの細胞製品に最適な凍結条件を見
つけられれば、様々な病気に対応でき、医療の世界を一変
させることになる。そこで、3 者は、これまでそれぞれが
第1表 3者の役割分担
培ってきた知見を組み合わせ、細胞製品の凍結条件の最適
化や、これに必要な凍結機の開発に共同で取り組み、再生
医療・創薬の発展に貢献することを目指す。
2
共同研究の内容
(1)凍結装置の磁界最適化
これまでの研究では永久磁石を用いた凍結装置であった
3
応用範囲・将来の展望
が、凍結装置の磁界強度の最適化を図るため、磁界を制御
本研究の社会実装(凍結機の普及および各種の再生医療
できる試験機の開発に取り組む。
等製品の凍結実証)は 4 年後を目指している。
第 3 図 研究のロードマップ
超電導装置 開発機(イメージ)
第 1 図 凍結機器のイメージ
※細胞の集合体であるスフェロイド(単一種の集合体)
、オルガノイド(複
数種の集合体)
、細胞と組織の中間的な状態をとるシート状・かたまり状
の細胞等。
本研究の開発技術は、再生医療を実現する細胞製品の凍
結ストックを可能とし、必要な時に必要な細胞製品を容易
に活用出来るようにする。将来は組織や臓器凍結などに応
用していく。こうした凍結技術を使って誰もが健康長寿で
いきいきとした社会生活をおくるための基盤を提供してい
きたい。
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技術開発ニュース 2024.03/No.168
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