技術開発ニュース No.168

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研 究 紹 介
(3)平塚波力発電所
第 2 段階 ( デモンストレーション ) では、環境省事業とし
て相模湾内の平塚漁港防波堤前面に改良型の平塚波力発電
所を設置した ( 第 4 図 )。平塚波力発電所は波受板を大きく
するとともに、背後に反射板を設置することで出力を向上
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今後の展開
(1)ユニバーサル設計
Wave Rudder の コ ン セ プ ト は「 小 さ い も の を 大 量 生
させた。波が斜めから入射したため目標の 45kW には達し
産」することであり、スケールメリットによる低コスト化
なかったが、40kW 程度発電できることが実証された。
を狙っている。台風時の高波浪は砕波するため、最大波高
はほぼ水深に比例することから Wave Rudder は設置水深
4 ~ 5m を想定している。そのため、基幹部品 ( 油圧発電
装置、波受板等 ) については設置地点によらない普遍的な
設計が可能である。第 4 段階 ( コマーシャル ) では Wave
Rudder を沿岸域に並列接続してウェーブファームを形成
する ( 第 7 図 )。
第 4 図 平塚波力発電所 (2018 ~ 2021 年度 )
第 7 図 ユニバーサル設計のコンセプト
(2)漁港施設への展開
国内には 2,777 ヶ所の漁港が存在するが(2023 年度現
在 )、漁業者の減少と高齢化が進んでいるため、水産庁は漁
港施設の有効活用を推進している。Wave Rudder は漁港や
第 5 図 発電状況の例
港湾と相性の良い方式であり、久慈および平塚でも漁港防
(4)新型油圧発電装置の開発
波堤前面に設置し、漁港の近くの既存の電力系統から送電
久慈波力発電所および平塚波力発電所では油圧回路とし
していた。発電した電力の一部を地産地消することもでき
て市販の油圧舵取機を用いていた。第 3 段階 ( プレコマー
るため、マイクログリッドとも相性の良い方式であり、国が
シャル ) では小型化、高効率化、低コスト化を図るため、
推進している地域共生型の再エネとしても魅力的である。
波力発電専用の油圧発電装置 (PTO) を開発している。変換
効率向上のため、油圧回路を閉回路として装置全体をシン
プル化し、変換ロスの低減を図っている。今後、主流とな
(3)海岸保全施設としての利用
Wave Rudder を沿岸域に設置することで来襲する波エ
る電気自動車のモータを発電機として利用することで、最
ネルギーを吸収することができる。したがって、消波ブ
新の技術の導入と低コスト化が期待できる。
ロック構造物 ( 離岸堤等 ) のような消波施設としても利用
できるため、海岸前面に設置することにより気候変動に対
EVG
する緩和策 (CO2 削減、カーボンニュートラル ) と適応策
( 海面上昇や台風強大化による海岸侵食対策 ) の両方に貢献
できる。
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おわりに
本稿では、波力発電の実用化に向けた共同研究チーム全
体の取り組みを紹介した。中部電力では 2024 年度から新
第 6 図 新型油圧発電装置の開発 (2022 ~ 2023 年度 )
型油圧発電装置の性能を踏まえて実現可能性調査 (FS) を
行い、地域実装の可能性を評価する予定である。なお、本
稿で用いた図については東京大学生産技術研究所からご提
供いただいた。ここに謝意を表す。
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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