技術開発ニュース No.168

- ページ: 80
-
研 究 紹 介
Introductions of Research Activities
新型波力発電装置の実用化に向けた開発
Study on the practical application of a new wave energy converter
気候変動の緩和策と適応策のための新たなエネルギー
執筆者
カーボンニュートラルの実現のためには多様な再生可能エネルギーを導入していく必要
がある。そのための取り組みの一つとして、東京大学との共同研究により波力発電の開発
を進めている。本稿では、波力発電の開発状況と今後の展開について紹介する。
1
はじめに
気候変動に伴う海面上昇や台風の強大化が進行すれば、
電力技術研究所
土木グループ
小林 豪毅
例えば、発電所の要件として、異常時に安全に停止する
必要があるが、Wave Rudder は異常を感知すると自動的
に電力系統から切り離すとともに、流量調整弁を閉止して
PM 発電機を安全に停止できる。
世界中の海岸環境に深刻な影響が生じる。日本は特に影響
が大きく、4℃上昇シナリオ (RCP8.5) では 21 世紀末に日
本の砂浜の約 8 割が消失するとの試算もある。気候変動を
緩和するためには化石燃料に代わる再生可能エネルギーの
開発が不可欠であり、太陽光発電と風力発電についてはす
でに実用化されている。しかし、有望と⾔われている波力
3
ロードマップと開発状況
(1)ロードマップ
波力発電の商用化に向けて第 2 図に示す 4 段階の開発を
発電についてはさまざまな方式が海域テストされているも
予定している。開発は 2012 年度から開始され、第 1 段階
のの、世界的にも商用化には至っていない。そこで、東京
は岩手県久慈市、第 2 段階は神奈川県平塚市で実施され
大学を中心とする共同研究チームでは商用化を目指した新
た。現在は第 2 段階までの経験を踏まえて新型油圧発電装
型波力発電装置の開発を進めており、中部電力も発電事業
置 (PTO) を開発しており、それを用いた第 3 段階の波力
者として共同研究に参加している。本稿では、これまでの
発電所の検討を進めている。これまでの開発状況を以下に
波力発電の取り組みと今後の展開について紹介する。
示す。
2012 2016
2
発電方式
新型波力発電装置の発電方式は1980 年代に室蘭工業大
学によって開発された振り子式波力発電装置をベースとして
おり、そこに新しい発電技術を導入して高効率化と低コスト
2018 2021
2022 2023
(
(
)
(
)
2030
2025 2028
)
(
(
)
)
)
第 2 図 商用化に向けたロードマップ
(2)久慈波力発電所
第 1 段階 ( プロトタイプ ) の久慈波力発電所は、文科省事
化を図っている。共同研究チームではこの新方式の波力発
業として久慈湾内の玉の脇漁港防波堤前面に設置した ( 第
電装置をWave Rudderと呼称している。Wave Rudder
3 図 )。当初から商用化を見据えて経産省の使用前検査を受
は波による波受板の往復運動を油圧シリンダでオイルの流
けるとともに、商用系統に連系 ( 日本初 ) して発電所とし
れに変換し、それをオイルモーターで回転運動に変えて PM
て稼働させた。高波浪時の変換効率は 32% であり風力発電
発電機を回す方式となっている( 第 1図 )。油圧回路を用い
と同程度の変換効率で発電できることが確認された。
る利点の一つは、さまざまな制御が容易なことである。
43kW
第 3 図 久慈波力発電所 (2012 ~ 2016 年度 )
第 1 図 Wave Rudder の概要
79
(
技術開発ニュース 2024.03/No.168
- ▲TOP