技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
VR 技術を活用した安全教育支援アプリケーションの開発
Development of support application for safety education using Virtual Reality technology
監督者安全教育への VR 技術適用の実現
配電設備の工事において、現場監督業務は作業の安全、災害の未然防止に不可欠な役割
である。定期的に監督者に対し机上と実地訓練の 2 方面から安全教育を行っているが、実
地訓練は準備に手間と時間がかかるため何度も再現することができず、効率的な監督者育
成に支障をきたしていた。この課題を解決するため、VR 技術を活用し、監督者が災害発
生状況をリアルに体験できる安全教育支援アプリケーションを開発した。
執筆者
電力技術研究所
電力品質グループ
武藤 貴昭
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背景および目的
受講者は配電設備工事の監督者となり、2 人の作業員を
指導する。VR 教育を開始すると、作業者が不安全行動を
行い、過去に発生した災害状況を再現する。体験者は、作
配電設備の工事では、監督者が地上から作業を監視・監
業者の不安全行動を発見し、コントローラの操作で指摘す
督し作業者の危険のポイントを指摘することで、感電・墜
ることで災害の発生を防止する。受講者が見ている映像例
落・挟まれ等の災害(以降災害と呼ぶ)の未然防止に大き
を第 2 図に示す。
な役割を果たしている。
従来、監督者を育成する安全教育では、研修所にて集合
研修を行い、机上教育や実地訓練を行ってきた。実地訓
練は、机上教育に比べ研修受講者の記憶に残り、教育効果
が高い。一方で、工事現場の状況を作る準備に時間と手間
がかかるため多く経験することができない。また、災害状
況の再現には危険が伴うため、実地訓練ではそこまで再現
できないことも課題である。そこで、これらの課題を解消
し、監督者の安全意識の醸成を行うために、VR(Virtual
Reality)技術を活用した監督者の安全教育支援アプリケー
ションを開発した。
開発にあたり、VR の再現性が低い場合、そちらに気を
第 2 図 安全教育支援シミュレータ映像例
(1)動作再現
本シミュレータでは、作業者の挙動をモーションキャプ
取られ教育内容に集中できない懸念があったため、受講者
チャにより再現した。モーションキャプチャとは、人物や
となる監督者の目から見ても違和感のないよう、作業者の
物体の動きを 3 次元データ化する技術である。今回は慣性
動作や状況のリアリティを細部まで追求した安全教育支援
センサ式(センサを体に装着することで、動作情報を取得
シミュレータと監督者安全教育の指導員向けのリプレイソ
する方法)を採用した。実際に、熟練作業者の体にセンサ
フトの開発を行った。
を取り付け、工事作業の動作データを計測したところ、計
測データのみから作成したモデルでは、センサ未取り付け
2
安全教育支援シミュレータの概要
箇所の動作が再現されなかった。このため、作業者の作業
動作に違和感があり、監督者が不安全行動かどうかを判断
しづらいことがわかった。その対策として、例えば第 3 図
安全教育支援シミュレータは、作業者の災害状況を模
に示すように撮影から得られた作業動作データ(指の動
擬した様々なシチュエーションを疑似体験する VR アプ
き)の違和感をなくすよう、細部までモデルを見直し、忠
リケーションである。受講者は、コントローラと HMD
実に再現することで、予想しづらい動作を極力なくした。
(Head Mounted Display)を使用し、VR 空間内を自由に
移動することができる。受講時の VR 機器使用状況を第 1
図に示す。
HMD
コントローラ
第 1 図 VR 機器使用状況
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技術開発ニュース 2024.03/No.168
第 3 図 動作撮影と再現データモデル例(指の動きの修正)
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