技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
レーザー計測機が捉えた送電鉄塔下の
雨滴特性と土壌侵食の実態
Investigation of raindrop characteristics and soil erosion under transmission towers using laser
measurement equipment
鉄塔敷の植生定着不良の解決を目指して
執筆者
送電鉄塔下の雨滴特性をレーザー雨滴計で計測し衝撃力を定量化した。敷地外と比べて
鉄塔下の雨滴は大粒で、雨滴衝撃力は最大で 18.5 倍、雨量は最大で 11.2 倍に達した。
また、地上 LiDAR を用いて敷地侵食の見える化を試みた。時期の異なる地表形状データ
の差分から、植生定着を妨げる小規模な侵食の検出と可視化が可能となった。
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電力技術研究所
バイオグループ
津田 その子
背景と目的
送電鉄塔敷は、侵食防止や周辺環境との調和を目的に緑
化されるが、多くの場所で当初からあるいは徐々に植生
が失われ敷地の裸地化が進んでいる。この要因について、
2019 年度に裸地化が進行している超高圧鉄塔を中心に 50
基程の現地調査を行った結果、裸地化の進行度と土壌・環
境条件に相関がないこと、シカ食害も顕著であるがそれ以
上に塔体フランジ部等から落下する雨滴の影響が強いこと
を改めて確認した。
第 1 図 計測地に設置したレーザー雨滴計 (右:単体)
(2)鉄塔から落下する雨滴径の特徴と雨滴の落下速度
第 2 図左側のヒストグラムは、2021 年 8 月 3 日に測定し
調査では、降雨時に雨滴による土壌表面の動きを観察
た雨滴の粒径分布の一例である。自然な降雨を示す脚外の
し、確実な植生定着の第一段階として、生育初期の植物が
雨滴径のピークは 1.1㎜でほとんどが 4㎜以下であるのに
根を張る前に流されたり、土壌の動きで根圏発達が妨げら
対し、脚内非集中箇所では僅かではあるものの 6㎜以上の
れたりしない程度に雨滴衝撃を弱めることが有効と考えら
大粒の雨滴がみられ、集中箇所では 7㎜前後にピークを持
れたが、送電鉄塔下の雨滴衝撃力を定量評価した事例は社
つ大粒の雨滴が大部分を占めた。
内外ともに無かった。雨滴衝撃力を定量化し、植物が耐え
られる基準値を示すことができれば、対策手法の検討や設
計が可能になる。
このため、2020 年度に雨滴衝撃力の計測手法の検討か
ら着手し、送電鉄塔下特有の雨の特徴、雨滴衝撃力と雨量
の最大値や分布を調べた。本報告では、鉄塔という特殊な
構造物が生み出した、大きなエネルギーを持つ雨滴の特徴
と、これらが現地で引き起こしている侵食の状況を捉えた
結果について紹介する。
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レーザー雨滴計を用いた雨滴衝撃力の
定量化
(1)雨滴衝撃力の測定方法
雨滴衝撃力の測定には、共同研究先の国立研究開発法人
森林研究・整備機構 森林総合研究所が作製したレーザー雨
滴計(第 1 図)を使用した。これは光学式雨滴計の一種で、
3cm×15cm のシート状に照射されたレーザー光を通過す
る雨滴 1 粒ごとの粒径と速度を測定し、粒径分布や運動エ
ネルギーを得ることができる。計測は、鉄塔の脚外、脚内
第 2 図 送電鉄塔下の雨滴の特徴
の非雨滴集中箇所(中央)、雨滴集中箇所(交点プレート
第 2 図右側の散布図は、ヒストグラムで示された雨滴ご
下)など複数の地点で実施した。
との落下速度を縦軸に示したものである。色の濃い部分に
多くの雨滴がある。脚外の雨滴は概ね終端速度(VT:青破
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技術開発ニュース 2024.03/No.168
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