技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
工場スチームトラップの蒸気漏れ量
簡易推算方法の考案
A Simple Method for Estimating the Amount of Steam Leakage in Factory Steam Traps
工場のスチームトラップからの蒸気漏れ量を簡単に推算して手軽に省エネ
工場の熱源として使用される蒸気は、配管を通して生産現場に輸送されるが、途中で蒸
気の一部が冷却されて水滴であるドレンとなる。このドレンを排除する機器としてスチー
ムトラップがあるが、このスチームトラップの故障時の蒸気漏れ量を簡易に算出できる方
法を考案したので紹介する。
1
執筆者
先端技術応用研究所
先端技術ソリューショングループ
長 伸朗
はじめに
業種や規模を問わずあらゆる工場において、蒸気は 50
~ 200℃の温度帯の比較的低温の一般的な熱源として、脱
脂槽や乾燥設備といった生産設備で使用される。実際の工
場では、第 1 図のように、蒸気をボイラで集中的に製造し
た後、数十~数百 m の蒸気配管を通じて生産設備に供給さ
れる。この蒸気配管が長い場合には、配管からの熱損失を
無視できなくなる。
第 2 図に示すように、蒸気配管内で、蒸気が放熱で熱を
第 2 図 蒸気配管内でのドレンの発生と熱損失
奪われると凝縮してドレンが発生する。ドレンは高温の水
滴の集まりであり、ウォーターハンマー(蒸気配管内を高
速で飛翔し、配管の曲がり部に衝突する現象)や圧力損失
設置されるスチームトラップは対象としない。また、経年
増大などの不都合が生じる。そのため、蒸気輸送配管の途
劣化が進み完全に故障したスチームトラップを取り扱い、
中で、ドレンを速やかに排除する必要がある。スチームト
故障が進行途上のものは対象としない。
ラップとは、そのために使用される装置であり、蒸気中の
ドレンだけを排出して、蒸気を極力漏らさないという用途
に用いられる自動弁の一種である。スチームトラップは、
30 ~ 50m ごとに設置され、ドレンがトラップ内に溜まる
2
スチームトラップの稼働状態の把握方法
と弁が自動で開き、ドレンを大気中に排出し、ドレン排出
スチームトラップの故障により本来漏洩してはいけない
が終わると弁が自動で閉じる。
蒸気が漏洩すると、その分の燃料損失が大きくなるため、
しかし、スチームトラップが故障すると、潜熱を含み熱
修理や交換が必要となる。しかし、トラップを大量に設置
エネルギーの大きい蒸気が大気中に漏洩することになり、
して緻密に管理している大手化学工場などを除いて、国内
大きな熱損失が発生し、ボイラで消費される燃料や電気の
の大多数の一般工場では、工場の操業やメンテに忙しかっ
無駄が発生することになる。
たり、トラップに関心がなかったりして、故障したスチー
本技術開発ニュース 167 号の「工場のスチームトラッ
ムトラップが放置されているのが実態である。第 3 図や第
プ故障の目視による簡易判別方法」において、スチームト
4 図のような応急措置が当たり前のこととなり、何年も放
ラップの故障を目視で簡易判別できる方法を紹介した。本
置されていることも多い。中には、20 年近く放置されてい
報では、工場のスチームトラップの蒸気漏れ量の簡易推算
る事例もある。
方法について述べる。
このように、大多数の一般工場で、無数のスチームト
なお、本記事では、ボイラから生産設備までの蒸気配管
ラップが故障を放置され、大量の蒸気を放出し続けている
に設置されるスチームトラップについて述べ、生産設備に
が、それらのトラップを正常なものに交換すれば、国内で
の大きな脱炭素が可能となる。
スチームトラップの稼働状況を把握には、故障診断器も
あり正確かつ有効であるが、その操作には習熟が必要であ
る。本技術開発ニュース 167 号において、トラップ故障の
手軽な判別方法を紹介したので、当社ホームページなどを
第 1 図 工場の蒸気の流れ
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技術開発ニュース 2024.03/No.168
参照されたい。
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