技術開発ニュース No.168

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スチームトラップからの蒸気漏れ量の計算
スチームトラップの脱炭素やコスト削減の試算方法を紹
介する。精密な測定値などに対して誤差はあるが、工場の
操業やメンテに忙しいご担当者でも手軽に試算でき、実用
上十分である。
(1)スチームトラップの稼働状況のパラメータ
まず、スチームトラップの稼働状況の指標となるパラメータ
として、開放の時間率T を定義する。この時間率T は、実際
のスチームトラップの稼働状態を観察することによって決める。
第 3 図 スチームトラップの故障 ( 弁故障により常時蒸気が漏洩)
種々の状況での時間率 T の値を第 2 表に示す。実際のス
チームトラップ蒸気を常時排出している場合は、弁の故障
で弁が常時開放されているため、時間率 T は 1 とする(第
3 図)。また同じ故障でも、蒸気もドレンも吹かない場合
は、 弁 が 詰 ま っ て お り、 時 間 率 T は 0 で あ る。 一 方、 ト
ラップが正常で断続的にドレン排出されている場合は、ト
ラップは一般に 1 時間に 5 分程度弁が開放され、蒸気も混
入して排出されるため、時間率 T は 0.1 とする。
ディスク式以外のトラップでは、正常稼働と完全な故
障(完全な詰まりまたは常時蒸気漏れ)の中間的な状況
第 4 図 バイパス弁の開放(トラップ故障で仕方なくバイパス弁開放)
第 2 表 スチームトラップの弁開放の時間率 T
(断続的な蒸気漏れ)はほとんど発生しないため、時間率
対象・種類
T は 0.1 と 1 のいずかの値をとる。しかし、ディスク式の
トラップでは、弁の摩耗が徐々に進行するため、時間率T
は、時間が経過すると 0.1 から 1 の値の中で徐々に大きく
なる。このため、工場での目視結果を基に、時間率を設定
する必要があるが、一律に 0.5 と設定してもよい。
トラップ故障でドレン排出できないため、ウォーターハ
蒸気トラップ
研 究 成 果
ンマー等の防止のため仕方なく、トラップに併設されたバ
フロート式
バケット式
ベローズ式
バイメタル式
ディスク式
イパス弁を開けることでドレン排出させる場合もある ( 第
4 図 )。この場合の時間率 T は 1 とする。
(2)スチームトラップからの蒸気漏れ量の算出方法
バイパス弁の開放
直径が数 mmの小孔からの蒸気漏れ量の計算式に前節の時
観察結果
判定
断続的なドレン排出
蒸気もドレンも吹か
ない
蒸気の常時排出
断続的なドレン排出
頻繁なドレン排出
(カチャカチャ音)
蒸気もドレンも排出
されない
蒸気の常時排出
蒸気もドレンも排出
されない
蒸気の常時排出
正常
故障
( 詰まり )
故障
正常
弁の摩耗
時間
率T
0.1
0
1
0.1
0.5
故障
( 詰まり )
故障
1.0
バルブ閉
0
バルブ開
1.0
0
間率を乗じることで、トラップからの蒸気漏れ量は計算できる。
H :年間の稼働時間= 8,000h/ 年
T :弁開放の時間率(第 2 表)
β :蒸気単価= 5 円 /kg
P :蒸気の絶対圧 [MPa]
y :燃料の単価= 100 円 /Nm3
d :小孔の直径 [mm]…2 ~ 4.5mm
d はスチームトラップの型式によって決めるが、型式が不明の場
合は、一律 3mmを用いる。また、スチームトラップの弁が詰
まって、バイパス弁が開放されている場合は5mmを使用する。
(3)計算例
①蒸気漏れ量 W m
T :弁開放の時間率= 1(第 2 表の蒸気の常時排出)
d :小孔の直径= 3mm
P :蒸気の絶対圧= 0.8MPa
②年間の燃料損失金額 A Y
K :故障しているスチームトラップの数= 5
③年間の CO2 排出量 C Y
K :燃料の CO2 排出係数= 2.23kg-CO2/Nm3
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おわりに
故障したスチームトラップを放置し、蒸気を何年も漏洩
したままにすると、ボイラの燃料消費の無駄が多大であ
り、脱炭素の面でトラップ交換の意義は大きい。今回の推
算方法は、これまでスチームトラップの故障を見過ごして
きた工場のお客さまに、脱炭素の効果などを簡易的に推算
できる方法としてご活用いただきたい。
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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