技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
送変電設備の教師無し学習による異常検出技術
Unsupervised Anomaly Detection for Power Transmission and Substation Equipment
異常データが不要な機械学習
パターン認識タスクにおいては一般に大量の異常データの収集が難しいため、通常の教
師有り学習を適用できないケースも多い。本研究では送変電設備を対象として、ラベル無
しの正常データのみから識別モデルの学習を行う「教師無し学習」による異常検出につい
て検討を行い、提案手法の有効性評価を行った。
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執筆者
先端技術応用研究所
情報技術グループ
瀬川 修
背景と目的
将来の設備保守業務の自動化に向けては、コンピュータ
ビジョンによる設備状態の把握が重要な要素技術になると
考えられる。一般にパターン認識タスクにおいては、対象
物体のカテゴリラベル付きデータを用意して識別モデルの
教師有り学習を行うことが多い。しかしながら、一般に異
常データを判別するタスクにおいては大量の異常データの
第 1 図 Patch Core の概要
収集が難しい上に、多様な異常状態を網羅的に定義するこ
と自体が困難である。
Patch Core の学習においては、前記 CNN の複数の中間
こ の た め、 最 近 で は ラ ベ ル 無 し の 正 常 デ ー タ の み
層の出力を組み合わせた特徴量を用いる。これにより、入
か ら 異 常 検 出 の モ デ ル を 学 習 す る「 教 師 無 し 学 習 」
力した正常画像から局所的な特徴を表すベクトル表現が獲
(Unsupervised-learning)のアプローチが盛んに検討さ
れるようになった。本稿では送変電設備を対象とした教師
推論時には、学習時と同一の CNN を利用し、入力画像
無し学習による異常検出手法の概要と、提案手法の有効性
から局所的なベクトル表現集合を抽出する。そして、各ベ
評価について述べる。
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問題設定
クトル表現に対しK 近傍法により、メモリバンク内で類似
したベクトル表現が選択され、それらとの距離が算出され
る。そして、各ベクトル表現に対する距離を統合すること
で、未知画像の異常スコアを得る。また、各ベクトル表現
本研究で検討した対象問題は下記のとおりである。いず
に対する距離をヒートマップとして可視化することより異
れも異常状態の画像が収集しづらいタスクである。
常箇所のセグメンテーション結果を得る。
(1) 変電設備の異常状態の判別
変圧器等のオイルクーラーの配管継手からの漏油
(2) 送電設備の異常状態の判別
送電線の落雷による溶痕
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アルゴリズム検討
教師無し学習を用いた異常検出には、(1) 入力画像の特
徴量を抽出し「正常状態の特徴分布」からの乖離度を評
価する方法、および (2) 入力画像を何らかの生成モデルで
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評価
Patch Core のベクトル表現抽出用の事前学習モデル
と し て Wide ResNet50 を 用 い た。 評 価 指 標 に は 異 常
検 出 タ ス ク で 一 般 的 な AUROC(Area Under Receiver
Operator Characteristic Curve)を用いた。
(1)変電設備の漏油箇所の検出
学習データとして、変電所設備のオイルクーラー配管継
再構成し、入出力画像の差分を評価する方法の 2 つのア
手の正常データ 80 枚(336×336 にリサイズ)を用いた。
プローチがある。本稿では (1) のアプローチ一つである
評価データとして、正常データ 10 枚、画像加工により異
Patch Core [1] を用いた。
常(漏油)を付加した模擬データ 10 枚の合計 20 枚を用い
Patch Core の概要を第 1 図に示す。同手法では、正常
た。漏油の検出例を第 2 図に示す。同図から、異常検出モ
画像の特徴量を抽出し、正常状態の特徴分布を反映したベ
デルにより正確に異常箇所が可視化されていることが確認
クトル表現のデータベース(メモリバンク)を構成する。
できる。異常検出の AUROC は 100 となり、少量の正常
この時、大量の画像データベースから事前学習された汎用
データで画角変化に対し頑健な異常検出が可能なことがわ
CNN の特徴マップを利用するため、少量の正常データで学
かった。
習した場合でも高い検出精度が期待できる。
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得され、メモリバンクに保存される。
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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