技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
水域の降雨実績に基づくデータおよび、流入量実績を学習
電所の条件が近い過去の日は少ない)ため、飛騨川上流の
教材とした。
貯水池運用の影響を大きく受ける上流グループと,馬瀬川
各ダム集水域はメッシュサイズ 5km で設定しており(第
からの合流が影響する下流グループに分けてそれぞれの条
3 図)、降水量の実績および予測値については、設定した
件に近い日を検索することとし、これにより各発電所の検
メッシュ内の値に変換して活用した。
索精度が向上した。第 6 図に検索例を示す。
ダム集水域
ダム集水域
ダム集水域
ダ
ダム地点
ダム地点
第 3 図 ダム集水域の設定例
降雨実績は流入量と相関が強い期間として対象時刻の 24
時間前までのデータも学習している。AI による流入量予測
第 6 図 過去検索 AI 提案例
結果の例を第 4 図に示す。平水時、洪水時ともに流入量実
最適化計算 AI と過去検索 AI はそれぞれ提案する計画に
績について日量および増減を再現することを確認できた。
特徴がある。前者は目的関数の最適化結果を提案するた
め、例えば高効率を求めダム水位を上限で推移させる計画
平水時
洪水時
流入量実績
流入量予測
等、運用者が運転・管理する上で、必ずしも運転しやすい
計画ではなく、実現性が低い計画となる可能性もある。一
方で、後者は実際に策定した過去の計画を提案するため、
第 4 図 流入量実績と流入量予測例
(2) 最適化計算 AI
本検討の目的が水系一貫での発電運用の最適化であるこ
運用者が心理的負担も含め運転しやすく実現性が高い計画
となる。
実際の発電計画は上述する各 AI が提案する計画の特徴を
踏まえ、運用者がそれに手を加えて策定する。
とから、増電および増収を対象発電所の合計で評価する必
要がある。最適化計算 AI では、関連するダムおよび発電
所の関係性を、ダム貯水上限、発電取水上下限、起動時刻
制約、河川での流下時間等の運用制約を前提に、ダム貯水
3
検討成果と今後の展開
量、予想流入量、発電取水量、ゲート放流量等のパラメー
本検討は 2021 年 4 月より検証を行ってきており、本シ
タを用いてモデル化し、最適化アルゴリズムにより対象発
ステム導入の効果として水系全体で年間 2% 程度の増電が
電所総合で前述の 3 つの目的関数をそれぞれ最適化する発
期待できることを確認した。また、発電計画の策定に要す
電計画を提案する。なお、予想流入量には流入量予測 AI の
る時間を従来の 4 分の 1 以下に削減し、業務の効率化を実
出力結果を用いる。第 5 図に売電金額最大を目的関数とし
現することに加え、これまで OJT が中心であった若手従業
て最適化計算 AI が提案した発電計画の例を示す。売電の高
員の教育について、本システムを用いたシミュレーション
価格帯で発電を盛上げる適切な計画を提案できていること
により短期間での技術習得が可能となる。
が確認できた。
今後、流入量予測 AI については運用の中で予測精度を監
視していき、学習データの更新等により性能維持および向
上を図っていく。また、過去検索 AI については検索対象と
なる発電計画データを蓄積していき、検索精度向上を図っ
ていく。
第 5 図 最適化計算 AI 提案例
(3) 過去検索 AI
現在、当社管内の他水系への展開も検討・検証中であ
り、全社でのさらなる水力発電の増電および増収を目指す。
また、長期雨量予測を用いた週間発電計画の最適化も検
翌日の各ダム水位や、貯水計画に基づく使用可能水量等
討している。本システムでは日単位での最適化を目的とし
の諸条件を元に、検索アルゴリズムにより過去に類似の条
たが、週間単位で貯水池運用の最適化を図ることで、溢水
件であった日の水系全体の発電計画を過去データから検索
の削減と、より需給ニーズに沿った発電計画の提案が可能
する AI を開発した。検討の中で、対象発電所全ての条件が
となる。
近似する日を検索しようとすると検索精度が下がる(全発
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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