技術開発ニュース No.168

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トピック ス
Topics
水素エネルギーキャリアとしてのアンモニアの可能性
Potential of ammonia as a hydrogen energy carrier
研究所発のアンモニア利用技術の開発に向けて
2050 年カーボンニュートラルの実現には、非電力分野における「熱需要」の CO2 排
出削減が重要である。特に産業部門においては、燃焼を伴う利用による熱需要も多く、電
化が出来ない熱需要に関しては、水素の利用が必要になると想定される。本稿では、水素
エネルギーキャリアであるアンモニアの可能性について説明する。
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執筆者
先端技術応用研究所
先端技術ソリューショングループ
神田 茂樹
はじめに
2020 年10月、日本は 2050 年までに温室効果ガス排出
量を全体としてゼロにする、すなわち「カーボンニュートラ
ル(以下、CN)」を目指すことを宣⾔した。また、2021年 4
月には、2030 年度の新たな温室効果ガス削減目標として、
第 1 図 CN の目指す姿 1)
2013 年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の
高みに向けて挑戦を続けるという新たな方針も示された。
2
CNを目指す
2050 年 CN の実現に向けては、温室効果ガス排出量の
9 割程度を占めるエネルギーを起源とする温室効果ガスの削
減が重要である。温室効果ガス排出量の大幅削減に取り組
第 2 図 CO2 排出削減のイメージ 2)
3
産業部門のエネルギー消費量の見通し
み、それでも排出せざるを得なかった量を、最終的に「植林
国立環境研究所の分析 3) によると、産業部門における
や森林管理などによる吸収」や「CO2 を回収して貯留・利用
2050 年のエネルギー消費量の見通しとして、一部で化石
するCCUS」により差し引きゼロ、全体としてゼロを目指す
エネルギーの利用が残るものの、新しく水素や合成燃料の
ことが、
CNの「ニュートラル(中立)
」の意味するところである。
利用が見込まれている。産業部門における熱需要は、燃焼
エネルギーを使うユーザー側が CN を実現するために
を伴う利用も多く、利用用途やその特性をもとに「省エ
は、次のような段取りで取り組むことが大切である。
ネ」や「熱需要の電化」を進め、電化が出来ない熱需要に
①
今まで以上の徹底した省エネに取り組むこと
関しては、水素の利用が必要になると想定される。
②
廃熱の回収やヒートポンプなどのエネルギー効率の高
い製品を使用することで、エネルギーの利用効率を高
めること
③
再生可能エネルギーなどのカーボンフリー電気の利用
を前提として、電化を進めること
④
電化が困難な熱需要に対しては、水素やアンモニアの
利用などのエネルギーの転換を進めること
ここで「非電力」分野における「熱需要」の CO2 排出
第 3 図 産業部門のエネルギー消費量の推移見通し 3)
削減に着目する。「運輸」における取り組みについてはこ
こでは割愛するが、「民生」のうち、家庭や業務部門での
熱需要は、主に空調や厨房、給湯での利用である。この空
調や厨房、給湯においてはヒートポンプを始めとした電化
技術の開発が進んでおり、カーボンフリー電気を利用した
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水素の特徴
水素は、利用段階では CO2 を排出しないエネルギーであ
電化への転換が、CO2 排出削減の有力な手段となる。一方
り、CN の実現に貢 献するエネルギーとして期待されてい
で、電化の課題としては、機器設置スペースが増えること
る。日本には再生可能エネルギーの適地が少なく、水素を
や、電気容量が増えることなど、設備の導入の際にはコス
製造するための電力を全て国内で賄おうとするのは困難であ
トと合わせてそれらの制約をクリアする必要がある。
り、そのため海外から調達する仕組みを整えることが必要
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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