技術開発ニュース No.168

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ト ピ ッ ク ス
不可欠である。また、水素は体積当たりのエネルギー密度
が低いため、気体のままでは輸送や貯蔵の効率が悪く、水
素エネルギーキャリアとして液化水素、有機ハイドライド、
アンモニアによる輸送や貯蔵の技術開発が進められている。
第 6 図 燃料アンモニアの日本着供給コストの試算 6)
現在、石炭火力発電においてアンモニアを20%混焼する
実証実験が進められている。仮に国内の大手電力会社が保
有する全ての石炭火力発電所で20%混焼が行われれば、年
第 4 図 水素エネルギーキャリアの取り組み
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4)
水素の社会実装に向けて
間のアンモニア消費量は約 2,000 万 tとなる。この量は現在
の日本の消費量の約 20 倍であり、また世界全体の生産量の
約10%を占める量である。世界の生産量の 8 割は肥料として
利用され、そのほとんどが生産国で自家消費されている。ア
ンモニアが燃料として使われるようになれば、需要が供給を
水素の社会実装には、①技術的課題、②インフラ整備、③
大きく上回るため、安定したサプライチェーンの構築が必要
コストの3つの課題を克服する必要がある。技術開発が進展
不可欠となる。その後、石炭火力発電でのアンモニア利用が
し、技術的課題がある程度解消され、社会実装が近づくにつ
進むことで、国内流通量が増加、市場が安定し、産業分野に
れ、インフラ整備、コストに対処すべき課題がシフトしていく。
おけるアンモニア利用も広がることが想定される。
① 技術的課題
水素の特性を踏まえ、例えば燃焼に関する技術開発が必要
② インフラ整備
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アンモニアの課題
供給量が多いほど、また供給先が多岐にわたるほどより
アンモニアは輸送、貯蔵、コストに利点があるものの、
大規模なエネルギーを供給するためのインフラ整備が必要
その毒性や刺激臭、燃焼のし難さが課題である。また、燃
(供給力、供給のための配送、貯蔵するための設備など)
焼しても CO2 を排出しないが、排出規制のある窒素酸化
③ コスト
物(NOx)が燃料由来でも発生するため、効果的な燃焼技
コストなど、既存の燃料や機器等とのコスト差が大きい
対しても対策が必要となる。この一酸化二窒素は温室効果
と、導入が進展しない
ガスのひとつで、CO2 よりも約 300 倍も地球温暖化係数
水素の燃料コストや利用のために必要となる貯蔵や機器
術の開発が必要である。そして、一酸化二窒素(N2O)に
(GWP)が高いことで知られている。
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アンモニアの可能性
水素エネルギーキャリアであるアンモニアは、製造技術が既
に確立されていること、容易に輸送・貯蔵ができること、直接
利用が可能なことが大きな利点である。また、コストの面から
産業分野向けでは、NEDO プロジェクトをはじめ、様々
な民間企業においてもアンモニア利用技術の開発が進めら
れている。
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今後の取り組み
も、2030 年時点において、海外で製造したブルー水素※をア
当社グループは、お客さまとともに脱炭素社会を実現して
ンモニアに転換して海上輸送した日本着コストが、水素換算
いくため、アンモニアの燃焼技術を始めとした利活用等に資
で19 円 /Nm 台 と試算されているのも大きな魅力である。
する技術開発を進めるとともに、それらを支える国際 供給
※ブルー水素
網から地域供給網までのサプライチェーン構築を目指してい
化石燃料を原料として、製造工程で排出された CO2 を回
る。当研究所においても日本のエネルギー有効利用にアンモ
収・貯留・利用した水素。再エネなどを使って、製造工程
ニアの利用技術開発で貢献できるよう、今後注力していく。
においても CO2 を排出せずにつくられた水素は、「グリー
参考文献
3
5)
ン水素」と呼ばれている。
第 5 図 燃料アンモニアの直接燃焼利用 5)
1) https://www.enecho.meti.go.jp/about/special
/johoteikyo/carbon_neutral_01.html
2) https://www.enecho.meti.go.jp/about/special
/johoteikyo/carbon_neutral_02.html
3) https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council
/basic_policy_subcommittee/2021/044/044_005.pdf
4) https://www.jst.go.jp/sip/pdf/SIP_energycarriers2016.pdf
5) https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_02.html
6) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment
/nenryo_anmonia/supply_chain_tf/pdf/20220928_0.pdf
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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