技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
室内のにおいに対する人の嗅覚推定手法の検討
Consideration of a method for estimating human olfaction perception of indoor odors.
人の嗅覚を AI で予測する
においの成分をリアルタイムで計測するセンサーが実用段階にある。当社は、人の嗅覚
を推定する手法の可能性を検討するため、大同大学と共同で室内のにおいを対象として、
官能試験やにおいセンサーでの計測を行った。そして、得られたデータを活用して機械学
習により人の嗅覚を推定する手法の可能性を検討した。
執筆者
先端技術応用研究所
EaaS グループ
志村 欣一
1
(2)嗅覚の判定基準
背景と目的
20 種類のにおい物質について、3 種類の濃度(臭気強度
2,3,4 程度)の試料を用意し、6 ~ 8 名の被験者によっ
においに対する人の嗜好(以降「嗅覚」とする)を計測
て、第 1 表の指標を用いて官能評価を実施し、平均値を求
できれば、清掃事業など様々な分野での活用が期待できる。
めた。また、ホテル 3 カ所の計 19 の客室と 7 種類のアロマ
においの成分はガスクロマトグラフ装置(GC-MS)に
オイルについても 4 ~ 6 名の被験者による官能評価を実施
より定性・定量化できるものの、高価でリアルタイムに計
した。
測できないため適用困難である。また、嗅覚は物質の種類
臭気強度と快・不快度の申告値の関係を第 1 図に示す。
や周辺の温湿度条件および個人差などに大きく影響される
臭気強度が大きくなると、申告値が不快側となる傾向を示
ため、普及には至っていない。しかしながら、においの成
した。無臭では快・不快度は中立となるが、臭気強度が 3
分をリアルタイムで複数の数値として計測するセンサーが
と比較的強いにおいに対しても、中立より快適側となるに
市場投入され、その活用方法について各所で鋭意開発され
おい物質も多数存在した。
ている
。
臭気強度と容認性の申告値の関係を第 2 図に示す。臭気
(1)
そこで、室内のにおいを対象として、官能試験により人
強度が大きくなると、申告値が受け入れられない側とな
の嗅覚を計測するとともに、においセンサーを用いてにお
る傾向を示した。しかしながら、α - ピネンや D- リモネン
いの成分を数値化し、嗅覚を機械学習により推定する手法
など臭気強度 3 でも受け入れられるにおい物質が多数存在
について検討した。
した。
そこで、快・不快度と容認性の申告値の関係を見ると、
2
人の嗅覚の評価方法の検討
(1) においの選定
第 3 図のとおり負の相関関係が見られた。そこで、嗅覚の
判定基準として、快・不快度が -0.38 以上、かつ、容認性
が 0.29 以下の状態を、においに対して許容範囲であると定
義した。
生活環境の様々なにおい物質(144 種類)について、ス
ニッフィングスティック(アルファモスジャパン製)のに
おい溶液を臭気強度 3 程度(楽に感知できるにおい)に調
本研究では㈱アロマビット製のにおいセンサーを用い
整した液体試料のにおい物質を用意した。
て、(2)のにおい物質を計測した。このセンサーは、一つ
そして、嗅覚パネル選定試験に合格した 20 代女子大学
のにおい物質に対して数十種類の計測値が得られるため、
生 9 名による官能評価を第 1 表の官能評価指標を用いて実
計測値と人の快・不快度および許容性との関係性について
施し、144 種類のにおい物質から、快・不快度、容認性の
機械学習を行い、快・不快度と容認性を数値化するための
評価結果をもとに快適なにおいから不快なにおいに分布す
予測モデルを構築した。
る 20 種類のにおいを選定した。
機 械 学 習 は、Microsoft Azure の 自 動 機 械 学 習
(AutoML) を用いて平均平方二乗誤差が最も小さい回帰予
第 1 表 官能評価指標
測モデルを抽出した。
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-4
1
-3
2
-2
3
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5
1
2
3
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(3)機械学習による嗅覚推定
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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予測モデルの誤差は、第 2 表のとおり快・不快度、容認
性とも、比較的小さく、実用が期待できることを確認でき
た。しかし、快・不快度、容認性の実測値と予測値との関
係を見ると、快・不快度の官能評価が快適(+1)や不快
(-3)の場合、容認性が受け入れられる(0)や受け入れな
れない(1)の場合では、推定値が中央値側となる傾向が
見られた(第 4 図、第 5 図)。
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