技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
複数台普通充電器の最適充電制御のための要素
技術開発
Development of key technologies for optimal charging control of multiple standard chargers.
電気自動車(EV)の本格的な普及に対応して
執筆者
先端技術応用研究所
EaaS グループ
志村 欣一
事業所などに電気自動車(EV)が大量導入される状況を想定し、充電による施設全体
の消費電力の増加を極力抑え、かつ、EV の充電優先順位を判定して、複数台の普通充電
器を最適に制御するための EV 運用管理システムの要素技術について検討した。
ど、工夫が必要であり、今後、回帰モデルを対象に検討を
進めていく。
が急速に進むなか、事業所などに複数台の充電設備を設置
第 1 表 予測モデルの比較
するケースが多くなり、充電のための電力設備の増強や、
電力需要
(平均値)
充電が集中することによる電気契約の基本料金の上昇な
時系列モデル
平均平方二乗誤差
平均絶対誤差率
5.38 kWh/30 分
5.9%
17.0 kWh/30 分
25.0%
7.05 kWh/30 分
8.5%
18.5 kWh/30 分
25.0%
充電可能な電力や時間帯を推定する技術や、EV 走行に必要
るための充電計画を策定するロジックを開発することを目
指している。
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要素技術開発
(1)事業所の電力需要予測
1
1
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1
1
8
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1
1
5
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1
charge)を予測する技術や複数台の充電器を最適に制御す
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て、 事 業 所 の 電 力 需 要 や EV の 充 電 率(SOC:State of
0
-20
1
そ こ で、 当 社 の 技 術 開 発 本 部 を 実 証 フ ィ ー ル ド と し
20
2
配備された充電器を最適に制御することが有効である。
_minato
40
kWh/30
な充電量を推定して EV の充電優先順位を判定し、複数台
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この課題の解決には、事業所の電力需要を予測して、EV
62.4
kWh/30 分
検証時
平均絶対誤差率
1
ど、経済的な負担増加が課題となる。
回帰モデル
学習時
平均平方二乗誤差
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カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車の電動化
なる傾向が見られる。予測モデルを季節ごとに構築するな
1
背景と目的
10
1
なっている。一方、冬期では予測値が実測値より小さく
第 1 図 回帰モデルの誤差の年間推移
(2)EV の充電率予測
複数充電器を個別に制御するためには、EV の充電率
(SOC)を把握する必要がある。一般に、普通充電器では
SOC を把握できないため、走行距離などから推定する必要
事業所の電力需要を予測するため、機械学習による回帰
がある。
モデルと時系列モデルを検討した。検討に用いたデータ
そこで、2 台の EV(車種:リーフ、蓄電容量:40kWh/
は、名古屋市の当社営業所の 2020 年 2 月 1 日から 2023
台)に、第 2 図のデータ計測装置を試作して設置し、2022
年 1 月 31 日までの 3 年間である。初めの 2 年間のデータを
年 3 月から 2023 年 7 月まで位置情報と車内の気温を計測
学習して予測モデルを構築し、最後の 1 年間のデータで予
した。
測モデルの精度検証を行った。電力需要予測のための説明
変数は時刻や曜日の他に 4 種類の気象データとした。
本 研 究 で は、Microsoft Azure の 自 動 機 械 学 習
M5Stack
Wi-Fi
(AutoML) を用いて平均平方二乗誤差が最も小さい予測モ
さいため、本研究では、回帰モデルを適用することとし
EV
Wi-Fi
デルを抽出した。
第 1 表のとおり回帰モデルが時系列モデルより誤差が小
USB
GPS
た。平均絶対誤差率は、学習時では 5.9%であったが、検
AI
Data Lake Storage
第 2 図 走行状態を計測するシステム
証時では 25.0%まで上昇した。検証に用いた 1 年間の電力
需要が過去に比べて大きく変動する日があったことが一因
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と思われる。
走行による充電率の減少と SOC の関係を把握するため、
第 1 図は回帰モデルによる 30 分毎の予測差(実測値―
GPS による位置情報から走行距離や加速度などを計算し、
予測値)を 1 日の平均値として 1 年間示している。予測差
1 回の充電量と紐づけを行い、250 回の分析データが得ら
が、夏期ではマイナスとなり、予測値が実測値より大きく
れた。
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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