技術開発ニュース No.168

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研 究 成 果
Results of Research Activities
フィルタベント設備における混相流動に関する基礎研究
Basic research on multiphase flow in filter vent equipment.
実機状態を模擬した基礎実験を通じた蒸気凝縮振動に関する知見拡充
執筆者
原子力発電所に関する新規制基準適合のため、詳細検討中のフィルタベント設備に関して、
格納容器から圧力を逃すベント操作時に、設備内で蒸気凝縮が発生するため、蒸気凝縮による
振動等の影響に関する知見拡充を目的とした基礎研究を東京工業大学と共同で実施した。
1
研究の背景と目的
フィルタベント設備
原子力本部 原子力部
設備設計グループ
太田 充洋
凝縮による振動状態を把握するためには、ガス放出ノズル出
口の気体界面の挙動、圧力変化を観察する必要があること
から、それらを観察・データ収集可能な実験装置を構築した。
内の低温水中に蒸気を含むガスが流
実験装置の概要を第 2 図に示す。ボイラーで発生させた
入する際に蒸気凝縮による動荷重が発生し、フィルタ容器及
水蒸気をプール水中に放出し、水蒸気凝縮の挙動を、高速
び内部構造物へ影響を及ぼす可能性がある。本件に関し、
度カメラ、圧力センサにて観察・データ収集する。また、
過去、先行他社の安全 審査において、既往の研究結果 ※ 2
非凝縮性ガスを含んだ蒸気による観察を実施するため、空
(Ayaら[1]、以下「既往研究」という。)を元に内部構造物
気圧縮機から送風した非凝縮性ガス(空気)を混合槽にて
※1
へ影響を及ぼす動荷重は発生しないことを説明している。
水蒸気と混合する。なお、低温水中でのガス放出ノズルの
しかしながら、既往研究で用いた実験装置と当社が検討
形状は、第 2 図に示すとおり、上向き、下向き、斜め下向
中のフィルタベント設備では、水中へのガス放出ノズルの
きの 3 種類を制作した。
向きが異なる(既往研究:下向き、実機:斜め下向き)。
そのため、知見拡充に向けた基礎研究として、実機に近い
T
F
形状を模擬した実験装置を構築し、基礎実験を通じたデー
P
T
タ収集・既往研究との比較等の分析を実施した。
※1 万一炉心損傷が発生し、格納容器が過圧される状況に
なった場合においても、格納容器内の気体をフィルタベ
ント設備内の水及びフィルタを通じて外部へ放出するこ
とにより、格納容器を減圧して格納容器の破損を防止
F
P
HSC
Po
F
T
P
T
90 cm
するとともに、粒子状放射性物質(セシウム等)の放出
量を1/1000 以下に低減(99.9% 以上を除去)するた
めの設備(第 1図参照)。
10 cm
Po
第 2 図 実験装置 概要図
(2)基礎実験によるデータ収集・分析
a.実験装置の妥当性確認のための基礎実験
今回構築した実 験装置の妥当性を確 認するため、上
向きノズルを用いた基礎実験を実施し、データを収集し
た。既往研究を参考に蒸気流束(4 ~ 45kg/m2・s)、プー
第 1 図 フィルタベント設備 概要図
※2 ベント管を通じて蒸気が水中に放出され凝縮する際、蒸
気流束や水中温度をパラメータにした一定の条件下で、
チャギング現象と呼ばれる、液体と蒸気との界面変動
(ベント管内への逆流)を伴う不規則でかつパルス状の
大きな圧力変動現象が発生することが確認されている。
2
基礎研究の内容
基礎研究の項目、および概要を以下に示す。
(1)実験装置の構築
蒸気凝縮振動に関する既往研究を分析したところ、蒸気
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技術開発ニュース 2024.03/No.168
ル水温度(20 ~ 95℃)をパラメータとし複数の条件下で
実験を行い、蒸気凝縮挙動とプール水温度・流束との関
係性を状態図にまとめ、既往研究との比較を実施した。
b.ノズルの向きによる蒸気凝縮挙動への影響確認
低温水中へのガス放出ノズルの向きによる蒸気凝縮挙
動への影響の有無を確認するため、上向き、下向き、斜
め下向きの 3 種類のノズルを用いた実験を実施した。
c.非凝縮性ガス混合による蒸気凝縮挙動への影響確認
フィルタベント設備では、蒸気内に初期充填されてい
る窒素、水の放射線分解により発生する水素・酸素が含
まれることを踏まえ、非凝縮性ガスの混合の有無が蒸気
凝縮挙動へ与える影響を確認するため、非凝縮性ガスを
混合した蒸気による実験を実施した。
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