技術開発ニュース No.168

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研 究 紹 介
研 究 紹 介
Introductions of Research Activities
産業分野における水素専焼燃焼器の開発
Development of hydrogen-only combustor in the industrial field
水素利用の普及に向けた取り組み
執筆者
産業用水素バーナを独自開発し、技開本部内に設置した水素燃焼試験設備にて検証を進
め、安定燃焼と規制値を大幅に下回る低 NOx 化の両立に成功した。今後更なる改善に取
り組み、水素を安心して利用できる燃焼制御技術を確立し、脱炭素社会の実現を目指す。
1
技術開発の背景・目的
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先端技術応用研究所
先端技術ソリューショングループ
藤本 貴之・棚橋 尚貴
本研究での取り組み
これまで当研究所では、電気加熱と燃焼それぞれの長所
水素専焼技術の確立に向け、水素専焼バーナを当社で独
を生かした各種工業炉のソリューションを提案してきた
自開発し、工業炉を模擬した燃焼試験装置を用いて燃焼特
が、工業炉の脱炭素化を実現する方策として、水素の燃料
性の評価を行っている。
利用が注目されている。しかし水素のみを燃料に使用する
水素専焼は、危険性(逆火・爆発の発生)や NOx( 窒素酸
化物 ) 排出量の増加が懸念されており、安全性と低 NOx 化
を両立した燃焼技術の確立が必要である。
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水素燃料の特長と課題
水素燃料は、既存の化石燃料や他の CO2 フリー燃料と比
べて、以下の特長がある。
〇 燃焼時に CO2 を発生しない。
第 2 図 水素燃焼試験設備および水素バーナ
〇 人体に対する毒性がない。
水素火炎は炭素を含まないため、一般に無色で肉眼での
〇 火炎温度・燃焼速度が高い燃焼特性から、着火性・燃
確認は困難とされるが、燃焼試験においては条件により、
焼安定性が非常に良好 ( 安定燃焼させやすい )。
輝度は低いものの赤い火炎を確認できた。現時点で安定燃
一方で、以下の課題があり、対策が求められている。
焼と大気汚染防止法の規制値を大幅に下回る低 NOx 化の両
〇 燃焼特性より逆火、爆発が懸念される。
立を達成している。
〇 同じく燃焼特性より、空気中の窒素の高温酸化に由来
また燃焼試験と並行して熱流体解析を進めており、火炎
する NOx(サーマル NOx)が増加する。
構造や温度分布などについて評価を進めている。
第 1 図 水素の燃焼反応
第 3 図 水素火炎の様子
第 4 図 熱流体解析結果
第 1 表 水素の燃料特性
4
今後の展開
今後、排ガスからの温室効果ガス削減・ゼロ化のみなら
ず、安全性と低 NOx 性の両立ならびに加熱効率の高い水素
専焼技術の構築を進める。電気、水素燃焼、およびこれら
を組み合わせたハイブリッド加熱によるソリューション提
案を通じ、脱炭素社会の実現に貢献したい。
技術開発ニュース 2024.03/No.168
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