技術開発ニュース No.169

- ページ: 19
-
研 究 成 果
Results of Research Activities
波力発電に関する水理模型実験
Experimental study of pendulum type wave energy converter
水理模型実験による新しい発電技術の開発
執筆者
カーボンニュートラルの実現のためには多様な再生可能エネルギーを導入していく必要
がある。そのための取り組みの一つとして、波力発電の開発を東京大学との共同研究によ
り進めている。本稿では、波力発電の高効率化を目的として実施した水理模型実験につい
て紹介する。
電力技術研究所
土木グループ
小林 豪毅・杉山 陽一
1
はじめに
Wave Rudder は波の力を波受板で受け、その往復運動
を油圧装置で回転運動に変えて発電機を回す方式である。
油圧装置は耐久性が高く、波の状況に応じたさまざまな制
再生可能エネルギーの導入をさらに拡大していくために
御が可能である。Wave Rudder については、水理模型実
は、太陽光や風力だけでなく多様な自然エネルギーを活用
験だけでなく海域試験も行っており、岩手県久慈市に 1 号
していく必要がある。その一つとして有望と考えられてい
機 ( プロトタイプ )、神奈川県平塚市に 2 号機 ( デモンスト
るのが、未利用で高い賦存量を持つ波エネルギーである。
レーション ) を設置した。現在は 3 号機 ( プレコマーシャ
2023 年の国際エネルギー機関 (IEA) の報告書では、波力
ル ) について検討しており、将来的には 4 号機 ( コマーシャ
発電の導入目標を 2050 年までに 180GW(100 万 kW の原
ル ) で商用化を実現する計画である。
子力発電所 180 基分 ) としている。このような背景から波
力発電の開発競争が世界各国で繰り広げられているが、ま
だ商用展開できる汎用的なデバイスは開発されていない。
その理由の一つとして、風や潮流と違って波は往復運動で
3
実験装置および実験方法
あるため、電気エネルギーとして取り出すための機構や制
波力発電では入射波の波高に対して発電機の負荷が大き
御が複雑になることが挙げられる。波力発電のような技術
すぎても小さすぎても発電量が低下する。波高に応じて最
を開発するには、実験により波浪中の挙動と発電出力の基
適な発電負荷に設定することで発電量を最大化させること
本特性を把握することが重要である。そこで、当社が所有
ができる。水理模型実験ではこのような波力発電装置の制
する実験施設を用いて波力発電の水理模型実験を行った。
御方法について検討を行った。
当社が所有する造波水路内に第 2 図に示す波力発電装置
2
発電方式
当社が参加する東京大学海洋エネルギー共同研究では、
の実験模型を設置して波を入射させた。振り子式波力発電
装置は反射波のエネルギーも吸収するので、背後には反
反射板
ブレーキ
1.863m
沿岸設置型の振り子式波力発電装置を 2012 年から継続的
入射波
に開発している。振り子式波力発電装置は 1980 年代に室
蘭工業大学によって考案された方式であり、これに新しい
技術を導入して高効率化と低コスト化を図っている。共同
0.7m
波受板
研究チームでは、この新方式の装置を Wave Rudder と呼
称している。プロトタイプとして開発した Wave Rudder
揺動角
1 号機を第 1 図に示す。
0.6m
断面図
回転角計測器
軸トルク計測器
0.1m
0.1m
0.1m
波受板
0.7m
0.7m
波受板
第 1 図 Wave Rudder 1 号機 (2016 年に岩手県久慈市に設置 )
19
技術開発ニュース 2025.03/No.169
0.3m
1.0m
0.1m
0.98m
正面図
第 2 図 実験模型
- ▲TOP