技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
Results of Research Activities
新たな焼結方法と条件最適化による電池材料創製と性能向上の検証
Development for Solid state battery with the New Sintering method and Optimization Calculation of Conditions
執筆者
先端技術応用研究所
プロジェクト推進グループ
竹内 章浩
情報技術グループ
追良瀬 利也
EaaS グループ
久保田 潮
酸化物系全固体電池は材料特性として安全性が高いが、焼結しにくく電池性能を高めに
くいという課題がある。新たな焼結方法としてプラズマ活性化焼結法を用いて高性能化を
図るとともに、従来の実験経験的な焼結条件とデジタル技術を用いた機械学習により最適
化をした焼結条件を比較し、評価と課題抽出を行った。
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背景・目的
全固体電池とは陽極と陰極
間を固体電解質が担う電池で
ある(第1図)。固体電解質の
耐熱性の高さなどから、高容
量・高出力・高耐 熱・高速 充
第 2 図 粉体焼結法の比較
Sintering、エレニックス製 PAS Multi 型)(第 2 図)を用
電・長寿命・低コスト化が全
いて、電極間の密着性向上を図った。また急速焼結により
て実現出来るとされており、
給電困難な遠隔地向け機器用
や長距離ドローン用等の電池
として大きな期待がされている。
第 1 図 全固体電池の構成と
液系電池との比較
全固体電池には固体電解質により硫化物系と酸化物系に
大別される。硫化物系は柔らかく固体-固体の界面を作り
やすいため出力が出やすい一方で、空気中で材料的に安定
でなく、有毒な硫化水素が発生するため取り扱いが難しい
など課題がある。酸化物系は材料的に安定なため、硫化物
系と比べて安全性が大幅に高い。一方で酸化物系は硬いの
で固体-固体界面を作りにくく、融点も高いので焼成が十分
にできにくいことより、高出力化が難しいという課題がある。
今回、酸化物系全固体電池の性能を向上させるために新
たな電池作製方法を活用して評価を行った。さらにデジタ
ル技術を用い機械学習による焼結条件の最適化を試みた。
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開発内容
(1)PAS 法を用いた全固体電池の創製
酸化物系全固体電池の性能向上には正極-電解質層-負
極を Li などのキャリアイオンが移動しやすくなることが
+
カギである。そのためには異なる高融点の電極材料を十分
に焼結して密着性を上げることが重要である。
既往の焼結法には、圧力と外部加熱を用いるホットプレス
法(HP 法、Hot Press)がある。また圧力とパルス通電を
用い HP 法よりも焼結性能が良い放電プラズマ焼結法(SPS
法、Spark Plasma Sintering)もある。しかし、酸化物系
電極材料の副反応が減少することに伴う焼成ムラの抑制に
よる性能向上を図った。
(2)多軸 PAS 法を用いた全固体電池の創製
電流印加方向を電池界面に対して垂直方向(横通電)と
することで焼結時の反応性の差異を抑制し、電池性能の向
上が期待できる(第 3 図)。さらに鉛直・垂直同時に電流を
印可した多軸 PAS 法を用いて全固体電池※を焼結し、キャ
リアイオンの偏在の抑制を試みた(第 4 図)。
※ Na3V2(PO4)3 負極 /Na3Zr2(SiO4)2(PO4) 固体電解質 /Na3V2(PO4)3 正極
(3)機械学習による条件最適化の検討
従来電池の焼結条件は実験経験的にパラメータ(焼結温
度、焼結速度、加圧力、焼結保持時間など)を決められて
きた。この場合、実験時間的な制約からパラメータの変動
幅・変動個数には限界があるため、設定した条件が最適か
どうかは確かではない。そこで、既存の実験条件と結果の
相関を教示データとし、機械学習による遺伝的アルゴリズ
ムによって焼結条件を最適化するプログラムを Python で
作成した。実際に最適化計算を行って実験経験的な焼結条
件と比較し、評価と課題抽出を行った。
電子流の遮蔽
イオン泳動
印加電流
負極
固体
電解質
正極
界面間のイオン泳動は無い
電子
電極/固体電解質界面に遮蔽領域は発生
せず、正負極で対称的な温度分布となる
第 3 図 横通電で期待される効果
全固体電池の性能を十分出せる電池焼結法とは言えなかった。
今回新しい焼結法として、電極材料を加圧しながらパル
ス通電および加圧方向に直流通電をハイブリッドに印加
するプラズマ活性化焼結法(PAS 法、Plasma Activated
第 4 図 縦通電、横通電、縦横同時通電焼結のイメージ
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技術開発ニュース 2025.03/No.169
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