技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
3
3.3 機械学習による条件最適化の検討
結果
今まで実施した焼結条件と結果のデータセット 68 組に
ついて、試験回数の重複等を整理した。データセット数が
3.1 PAS 法を用いた全固体電池の創製
PAS 法により第 1 表の条件で初回放電容量 100 mAh/g
となる全固体電池を作製することができた(第 5 図)。また
長時間使用における放電容量は 60 mAh/g であり、SPS 法
による 40 mAh/g より 1.5 倍大きい電池性能であった。た
だし、粉体に直接通電させる焼結のため、電池性能のバラ
ツキが大きいという課題も見られた。
20 組程度と少なくなったが、これを用いて機械学習をさ
せ、遺伝的アルゴリズムによって焼結条件を最適化計算す
るプログラムを Python で作成した(第 7 図)。
最適化計算により放電容量が大きくなると予想される条件
を複数抽出した(第 2 表)。第 2 表の条件から、期待される
初回放電容量は100.5 ~ 109.4 mAh/gとなった。抽出した
条件は第1表に示す実際の焼結条件と同程度であり、また予
想される放電容量も第 5 図に示す結果と同程度となったこと
第 1 表 縦通電の焼結条件
目的温度
1(℃)
昇温時間
1(min)
目的温度
2(℃)
昇温時間
2(min)
保持時間
(min)
800
5
900
5
10
より、作成した最適化計算プログラムが活用可能と判断した。
第 7 図 最適条件抽出プログラム(抜粋)
第 5 図 放電容量の比較(左:PAS 法、右:SPS 法)
3.2 多軸 PAS 法を用いた全固体電池の創製
3.2.1 横通電および縦横同時通電 PAS 法の効果
横通電によるキャリアイオンの偏在の抑制効果によって
放電容量の向上を期待したが、縦通電焼結で作製した電池
と比べて性能は低かった。この結果から電極内外でのキャ
リアイオンの偏在よりも、電極材料の密着性、即ちキャリ
アイオンの電極間の移動が主要因になっていると考えられ
る。一方で横通電焼結では電池性能のバラツキが抑えられ
る効果が確認された。これは横通電では粉体の直接通電で
第 2 表 最適化計算で抽出した焼結条件と電池性能予想
条
件
A
B
C
4
軸
向
1
軸
向
2
目的
昇温
目的
昇温
温度 1 時間 1 温度 2 時間 2
(℃) (min) (℃) (min)
縦
横
844.2
縦
縦
縦
縦
763.0
731.6
4.9
4.9
2.5
860.6
945.8
827.2
4.9
4.9
2.6
保持 予想放電
時間 容量
(min) (mAh/g)
9.9
109.4
5.1
100.5
9.9
101.8
まとめ
はなく、型からの外部加熱により安定して加熱した可能性
・PAS法で作製した全固体電池で大きな放電容量を確認した。
縦横同時通電焼結では、縦通電焼結と同等の電池性能を
量と、電池性能のバラツキが抑えられる良い効果を確認
があると考えられる。
確認した。さらに縦通電焼結で見られた電池性能のバラツ
キも抑えられ、安定して高い性能を示す結果となった。
3.2.2 電池性能評価および材料分析
電子顕微鏡により、作製した全固体電池の断面の形態を
観察した結果、全固体電池内部まで緻密かつ電極間が密着
して焼結できていることを確認した(第 6 図)。また、X 線
回折により各層の化学種を分析した結果、化学種の偏在は
見られなかった。
した。バラツキ抑制の要因は、直接通電に加えて型から
の外部加熱の影響があるためと考えられる。
・データセット数が少なかったものの、最適化計算手法で抽出し
た焼結条件は妥当性があり、手法として活用可能と判断した。
5
終わりに
PAS 法による全固体電池の作製と最適化計算手法によ
る焼結条件の抽出は電池性能の向上に有効であることがわ
かった。一方で、焼結条件と結果のデータセット数が少な
負極層
く、条件の最適化をするのが難しい面があった。
今後はデータセット数を増やし、PAS 法と最適化計算の
固体電解質層
正極層
・縦横同時通電焼結では縦通電焼結と比べて同等の放電容
活用によって更なる性能向上を図り、全固体電池のニーズ
900°C
200 μm
第 6 図 作製した全固体電池の断面の電子顕微鏡写真
に応えていきたい。
今回の結果は(一財)電力中央研究所および(株)エレ
ニックスとの共同研究による。
技術開発ニュース 2025.03/No.169
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