技術開発ニュース No.169

- ページ: 31
-
研 究 成 果
Results of Research Activities
デジタルツインの検証のための
ミニチュア生産ラインの開発と活用
Development and use of miniature production lines for digital twin verification
執筆者
製造業のデジタル化の促進と成長を目指して
近年、世界の製造業主要先進国では、現実空間の工場を双子のようにサイバー空間上に
も再現し、遠隔監視やシミュレーションを可能とする環境、いわゆるデジタルツインの環
境を構築する工場が増えてきている。そこでデジタルツインの環境を効率的に構築する装
置を開発した。
1
課題と背景
3
先端技術応用研究所
プロジェクト推進グループ
遠藤 紀之・森田 健太郎
先端技術ソリューショングループ
薮崎 良介・藤本 貴之
情報技術グループ
志水 洋
開発品の特徴
現在、先端技術応用研究所では、日本のものづくりの底
実際の工場の生産ラインでは、設備ごとに様々な種類の
上げを目指して、最新のデジタルコンテンツを揃えたプ
FA 機器(Factory Automation : 生産工程の自動化を図る
ラットフォームサービスの立ち上げに取り組んでいる。そ
機器)が実装されており、複雑な通信環境となっている。
のサービスの一つに、お客さまの工場に入り、生産ライン
そこでミニチュア生産ラインでも、様々なメーカーの FA
のデジタルツインの構築に向けた検証作業がある。しかし
機器やロボットを付け替えて、精度の高い検証が行える設
稼働している工場では、立ち入りのためのスケジュール調
計としている。(第 2 図参照)
整や安全の確保などが難しく、検証が充分に行えないこと
が課題であった。そこで、デジタルツインの検証を工場に
入らなくても行える検証用装置を開発した。この装置は実
際の生産ラインの 1/10 スケールに再現した作りとなって
いることから、ミニチュア生産ラインと呼んでいる。
2
開発品の仕様
第 2 図 多くの FA 機器を実装したミニチュア生産ライン
前述の課題を解決するために、ミニチュア生産ライン
次にデジタルツインの通信構成について、第 3 図のよう
は、より本物の生産ラインに近い形の仕様としている。搬
に、PLC を起点に現実空間とサイバー空間に並列信号を
送設備の基本動作である、送る、止める、上げる、下げる
送ってデジタルツインを成立させている。さらにサイバー
といった動きを再現し、そこに 6 軸の産業用ロボットを加
空間においては、NVIDIA 社が提供するプラットフォーム
えた構成としている。第 1 図のように、上段と下段にはコ
「Omniverse」を介して複数の拠点から同時にアクセスし
ンベアを構え、その両端をリフターで繋ぐことで対象物を
て、遠隔監視や設備レイアウトの変更が行える環境も準備
循環させており、上段側のコンベアでは、スライダーに乗
している。
せたロボットがコンベアと並走しながら対象物にアプロー
チをしている。また、ここで述べる対象物とは 1/10 ス
ケールに再現した自動車の車体である。さらに装置下部に
は、工場の倉庫と監視室を再現したジオラマを作り、検証
用装置以外に展示物としての一面も持たせている。
第 1 図 ミニチュア生産ラインの構成とジオラマ
31
技術開発ニュース 2025.03/No.169
第 3 図 デジタルツインの通信構成
- ▲TOP