技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
Results of Research Activities
ステンレス鋼のすき間構造内部に浸入した
塩化物イオン拡散挙動試験装置の開発
Development of the diffusion test device for chloride ions in crevices of the stainless steel
塩化物イオン濃度拡散過程の見える化
浜岡原子力発電所 5 号機の海水混入事象により、現在も海水由来の塩化物イオンが原子
炉内のすき間構造内に残存している可能性が否定しきれない。本研究では、ステンレス鋼
のすき間内部のイオン拡散挙動評価を目的に、すき間内の溶液導電率が測定可能なイオン
拡散挙動試験装置を開発した。
執筆者
原子力安全技術研究所
プラントグループ
大村 幸一郎
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浜岡原子力発電所 5 号機の海水混入事象
2011 年 5 月、東日本大震災の影響により国からの停止
要請を受けた浜岡原子力発電所 5 号機は、原子炉停止操作
中の冷温停止過程で主復水器細管が損傷し、原子炉等に海
水が 400 m3 混入する事象が発生した(第 1 図)。原子炉お
よび炉内の構造物に海水による腐食が確認され(第 2 図)、
第 3 図 金属腐食の種類
腐食箇所の点検、機器の取替、脱塩水置換ならびに浄化系
運転による炉内の残留塩分除去を実施したが、現在も原子
すき間腐食の発生・進展過程には 5 つのステップがある。
炉内のすき間構造の内部に微量ながら海水由来の塩化物イ
①金属と酸素の反応による金属表面に不働態被膜の形成
オンが残留していることが否定しきれないため、すき間内
②不働態被膜の形成に伴うすき間内の酸素の枯渇
部に残留する塩化物イオンの浄化に資する挙動評価が課題
③塩化物イオンがある場合不働態被膜が破壊される
となっている。
④露出した金属表面から金属イオンが溶出(=すきま腐
食)
⑤溶出した金属イオン(+)に塩化物イオン(-)が引き
寄せられる
以上の流れにより、さらに不働態被膜が破壊されると
いった悪循環が起き、すき間腐食が広がる。塩化物イオン
がすき間内に多く残留している場合、腐食による減肉で部
材強度が低下する可能性があるため、残留している塩化物
イオンを浄化し、腐食を抑制する必要があるが、実機の浄
化と拡散挙動の関係は明らかになっていない。本研究で
第 1 図 浜岡 5 号機の海水混入事象
は、最適な浄化条件を見出すために、すき間内の残留塩化
物イオンの拡散挙動のメカニズムの特定を目的とした。
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塩化物イオンの拡散挙動の見える化
(1)塩化物イオン拡散挙動試験装置の開発
第 2 図 原子炉内構造物の腐食
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すき間腐食の発生原理と研究目的
すき間内の塩化物イオンの拡散挙動メカニズムの特定の
ためには、浄化中のイオン濃度拡散(溶質が濃度の薄い
方へ移動すること)の把握が必要であるが、すき間内の濃
度を直接計測するのは困難である。そこで、実機を模擬し
たすき間試験片を作製し、すき間内にセンサーを設置した
主要な金属腐食は大きく分けて 3 種類ある(第 3 図)。全
導電率測定装置(第 4 図)の開発を行った。センサーであ
面腐食や孔食は点検がしやすく、修理や機器の取替により
る電極から溶液に微弱な電流を流すことで電気抵抗を取得
健全性を確保できる。一方、すき間腐食は点検で見つけ出
し、導電率に変換する。これをイオン濃度に換算すること
すには限界があることから、適切な評価が必要になる。
で見える化が可能となる。
技術開発ニュース 2025.03/No.169
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