技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
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塩化物イオン拡散挙動試験装置の改良
(1)すき間腐食挙動の視える化
第 4 図 すき間内の導電率測定装置
(2)金属すき間内の濃度拡散における温度依存性評価
すき間腐食の挙動を視える化するため、2 つの機能(第
7 図)を追加した。まず、すき間を形成していた上側のス
テンレスを透明素材であるガラスに変更し、すき間内をビ
開発した装置を用いて、浄化時のすき間内の塩化物イオ
デオカメラで撮影できるようにした。また、従来通り導電
ン濃度拡散の温度依存性について、実験および数値計算に
率計ですき間内の濃度の時間変化を確認できるようにする
よる評価を行った。すき間内に塩化物イオンを十分浸入さ
とともに、常温時に試験片に電流を流し、強制的に腐食さ
せたのちに、外部を純水にした際のすき間内の導電率変化
せることで高温時に発生する腐食を模擬できるようにした。
を測定した。常温と高温(80℃)で比較した例として、
浄化時のすき間内の塩化物イオン濃度の測定結果を第 5 図
に示す。常温での場合は、濃度拡散の理論上は、時間につ
れて導電率が下がり、浄化されており、実験結果も理論通
りの濃度拡散となっている。一方、高温での場合は、水分
子が大きく振動することで、溶質が拡散しやすくなるので
はないかと考え、常温よりも浄化が進むと予想したが、実
験結果は理論通りではなく、浄化が停滞するという結果と
第 7 図 改良した塩化物イオン拡散挙動試験装置
(2)腐食と導電率との相関性評価
腐食と導電率の相関性を確認するために、改良した試験
なった。
装置を用いて腐食発生前後での導電率測定試験を行った。
第 8 図に試験結果を示す。(a) にすき間腐食の発生・進展
挙動を a ~ f まで時系列順に示す。腐食はすき間手前の壁
面から発生し入口・壁面反対方向へ向かって進展した。
(b)はすき間腐食の発生に伴う電流値と導電率の時間変化
である。腐食の発生とともに電流値(上に示す赤線)と、
第 5 図 浄化時のすき間内の塩化物イオン濃度拡散の測定結果
すき間入口付近にあるセンサー A の導電率(下に示す赤
(3)濃度拡散における温度依存性を踏まえた新たな課題
より、すき間内の濃度拡散・腐食過程の視える化装置を開
上記の試験結果から高温での浄化が停滞した原因を調査
線)が連動して上昇するといった相関性が見られた。以上
発することができた。
したところ、高温試験後の試験片には腐食が発生してい
ることが確認された(第 6 図)。これは腐食によってプラ
スの電荷を持つ鉄イオンが発生し、マイナスの電荷を持つ
塩化物イオンが引き寄せられることで、濃度拡散で排出さ
れず、すき間内に滞留すると考察した。つまり、高温時の
濃度拡散の効果よりも、腐食発生による阻害効果の方が大
きいことが確認できた。一方で、腐食とイオンの挙動につ
いて相関関係があると推測できたものの、すき間腐食の発
生時間・位置および進展方向等が分からないといった課題
(a)すき間腐食の発生・進展挙動 (b) 電流・導電率の時間変化
第 8 図 すきま腐食発生・進展挙動および導電率の関係性
が新たに発生した。そこで、すき間腐食の挙動を視える化
し、腐食と導電率との相関性の有無を確認する方法につい
て検討した。
5
まとめと今後の展開
浜岡 5 号機の再稼働に向けた海水成分の浄化を検討する
ため、すき間内の塩化物イオンの濃度拡散およびすき間腐食
過程の視える化装置を開発した。すき間内の浄化挙動・腐食
第 6 図 試験後のすき間試験片
発生時の導電率挙動を確認した結果、高温環境下では腐食
により浄化が阻害されるため、浄化は常温環境下で行うべき
との知見が得られた。現在は常温環境での塩化物イオンを除
去する効果を上げるための新たな浄化方法を検討中である。
技術開発ニュース 2025.03/No.169
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