技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
Results of Research Activities
津波発生に伴う微気圧変動の観測を活用した
津波予測手法の開発
Development of Tsunami Prediction Method Using Infrasound Waves Generated by Tsunamis
浜岡原子力発電所に襲来する津波を迅速かつ高精度に予測
浜岡原子力発電所では、津波発生時の迅速な避難や復旧計画の立案のため、多様な津波
観測計器により、発電所に来襲する津波を予測する「津波監視システム」を自社開発し運
用している。本研究では、より迅速かつ高精度な予測の実現に向け、津波に伴い発生し、
津波より早く伝播する微気圧変動を活用した津波予測手法を開発した。
執筆者
原子力安全技術研究所
地震・津波・防災グループ
渡邊 康介
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浜岡原子力発電所で運用される
津波監視監視システム
浜岡原子力発電所では、津波発生時の迅速な避難や復旧
予測の可能性を検証してきた。その結果、微気圧変動を活
用することが、現段階において実現性が最も高いと考えた。
微気圧変動は、津波発生に伴い海面が隆起沈降し大気を
揺らすことで発生する。この微気圧変動は、音速(時速
計画の立案のため、多様な津波観測計器により、発電所に
1,200km)程度で大気中を伝播するため、津波伝播速度
来襲する津波の高さ・到達時刻・収束時刻を予測する「津
(本検討対象海域では、平均時速 300km 程度)より格段に
波監視システム」を自社開発した。津波観測計器には、国
速く、迅速かつ高精度な津波予測に寄与することが期待さ
からデータ提供を受ける「DONET」、「GPS 波浪計」およ
れる。東北地方太平洋沖地震の際に、実際に観測された津
び自前の「海洋レーダ」がある(第 1 図)
。震源地と各観測
波および微気圧変動の伝播を数値解析で再現したものを第
地点が離れている場合、遠くの観測点を経由して順次津波
2 図に示す。津波数値解析は、非線形長波理論の運動方程
が観測されるまでに時間を要するため、精度よく予測を出
式及び連続式を基礎方程式とし、微気圧数値解析は、気圧
すまでに相応の時間がかかる。迅速な避難と復旧計画立案
波の波動方程式を基礎方程式としている。図より、微気圧
のためには、迅速かつ高精度な予測が望まれている。
変動は津波よりも速く伝播することが分かる。
迅速かつ高精度な津波予測に向け、津波に伴い発生し、
Tsunami Height(m)
開発した。本研究では、津波予測の迅速化ならびに高精度
化を目的に微気圧変動を活用した津波予測手法の開発に取
り組んだ。
Pressure(Pa)
津波より早く伝播する微気圧変動を用いた津波予測手法を
(a) 津波数値解析 (b) 微気圧数値解析
第 2 図 東北地方太平洋沖地震時の伝播の様子
(地震発生 10 分後)
3
微気圧変動を活用した
津波予測手法の開発と検証
津波監視システムでは、津波予測のため複数の手法を組
み合わせ、津波発生時の発電所運用に活用している。予測
第 1 図 津波監視システムの津波観測計器設置位置
2
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津波に伴い発生する微気圧変動
手法のひとつである波源推定法では、DONET 、GPS 波浪
計、海洋レーダが観測する水圧、水位、流速といった津波
観測データから津波の初期波源(津波のもとになる波源位
置と海面変動量)を推定し、予測地点(発電所地点)の津
波波形を予測する(以降、現行手法)。
津波を伴う地震が発生した際に生じる自然現象として
本研究では、津波観測データに加え、微気圧観測データ
は、動水圧変動、微気圧変動、電離圏電子密度変動、そし
を使用し、初期波源を推定し、予測地点の津波波形を予測
て磁場変動などが挙げられる。これまでに当研究グループ
する手法(以降、開発手法)を開発した。
では、前述の自然現象の活用による迅速かつ高精度な津波
開発手法に関する検証として、第 3 図の通り、南海トラ
技術開発ニュース 2025.03/No.169
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