技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
研 究 成 果
Results of Research Activities
送電鉄塔のボルト・ナット脱落防止具
(スマートスプリング)の開発
Development of attached spring (Smart Spring) that prevents bolts and nuts from loosening at
the joints of steel tower for overhead transmission line
執筆者
施工省力化、コストダウンの実現
送電鉄塔では、ボルトの緩み・脱落が確認された箇所において対策として脱落防止具
(HSE)を取付しているが、施工に時間を要するという課題を抱えていた。本研究では、
施工省力化を目的に取付動作と確認の簡略化が可能な脱落防止具(スマートスプリング)
の開発を行った。
中部電力パワーグリッド
エンジニアリングセンター
設備技術グループ
山本 雄大
1
目的
手回し工具に限定されていたが、スマートスプリングでは
電動工具での取付も可能となった。
送電鉄塔の建設において多用されているボルト・ナット
を用いた部材の接合は、風による鉄塔や電線の振動発生に
よる軸力の変化等の影響を受け、ボルトの緩み・脱落に至
る事象が発生することがある。これらの防止対策として、
一般的にはボルトの溝部の径よりも小さい内径を有するコ
イルバネ部により緩みを抑制できる脱落防止具等が採用さ
れており、当社では、HSE を標準的に使用している。
この HSE は、緩み止め性能は非常に高い一方で、以下の
ような手順での施工が必要であり、施工に時間を要すると
HSE スマートスプリング
第 1 図 脱落防止具の形状
いう課題を抱えていた。
① ボルトのねじ部に手で 1 山程度取付
② 専用工具(手回し工具に限定)でナット面まで挿入
③ 取付完了確認(HSE とナットが密着しているか、過
巻・ピッチ飛びがないか目視確認)
以上を踏まえ、施工省力化を目的に取付動作の簡略化お
よび取付完了時の目視確認が省略可能な脱落防止具(ス
六角形状を外向きに広げる
第 2 図 スマートスプリングのソケットへの取付状態
マートスプリング)を開発した(第 1 図参照)。
2
スマートスプリングの仕様
3
開発効果のまとめ
開発した本技術の主な効果として、緩み止め機構(コイ
HSE の課題①②を解決するため、スマートスプリング
ルバネ部)の両端を六角形状とし、その角度・巻き数を調
では、緩み止め機構(コイルバネ部)の両端を六角形とす
整することで、以下の手順による施工が可能となった。
る形状を検討した。これにより市販ソケットに取り付ける
① スマートスプリングをソケットへ取付
ことができ、手による取付手間を削減することを可能とし
② 手回し工具もしくは電動工具によるボルトへの取付
た。また、ソケット取付側の六角形状を外向きに広げるこ
取付動作の簡略化により、取付時間は手回し工具で HSE
とでバネの特性を活かし、取付時のソケットからの脱落防
の 1/4 程度(10 秒)、電動工具では 1/8 程度(5 秒)に短
止機能を付加させることも可能とした(第 2 図参照)。
縮することが可能となった。また、取付完了時の目視確認
課題③を解決するため、ソケット取付側の六角形状の巻
も省略が可能となり、確認作業についても省力化が可能と
き数を調整することで、スマートスプリングがナットに着
なった。
座するとソケット内部で空回りし、取付時の過巻・ピッチ
なお、緩み止め性能については、HSE の性能評価を行っ
飛びを解消できる形状とした。これにより、スマートスプ
た振動試験と同様の試験(NAS3350 に準拠した衝撃型振
リングが空回りする状態まで挿入することで品質が確保さ
動試験機を用いた繰り返し衝撃による緩み試験)を実施
れるため、取付時および完了時の目視による品質確認を削
し、その結果、規定値を満足しており、十分な緩み止め性
減することを可能とした。 また、適用工具も、これまで
能を有していることが確認できた。
技術開発ニュース 2025.03/No.169
2024.03/No.168
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