技術開発ニュース No.169

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研 究 成 果
Results of Research Activities
IEC 61850 プロセスバスを適用した
監視制御システムの実導入
Introduction of SAS (Substation Automation System) applying IEC 61850 process bus
国際規格の適用による変電所設備のスリム化およびデータ利活用を目指して
執筆者
変電所の保護制御システムとMU
(Merging Unit)間に国際規格 IEC 61850 に準拠し
たプロセスバスを適用することで、機器近傍において系統電圧・電流値等の信号のデジタル
化が可能となり、設備のスリム化やデータの利活用が期待できる。当社は、プロセスバスを
適用した変電所監視制御システムを国内他社に先駆けて導入したため、そのシステムの特徴
や機能等を紹介する。
中部電力パワーグリッド
エンジニアリングセンター
用品グループ
伊藤 拓也
1
第 1 表 変電所監視制御システムの主な構成装置
背景・目的
IEC 61850 は異メーカー装置間の相互接続性を確保する
ために制定された国際規格である。本規格は変電所の機能
を個別にデータモデル化し、異メーカーの装置が相互に接
続可能な共通の通信手順を示している。本規格を適用し、
様々なメーカーの装置を接続可能にすることで、「国際規
格を用いた保守性の統一によるライフサイクルコストの低
装置
概要
GW
給電制御所から変電所を監視制御するために必要
な情報を送受信する遠隔監視制御装置
SCADA
現地の変電所で監視制御するための装置
RedBox
構内通信の冗長化に用いるネットワーク機器
IED
送電線など回線ごとに 1 台実装し、制御・計測・
故障表示などの機能を具備する装置
MU
系統電圧・電流値などの計測・入力した情報をデ
ジタルデータに変換して出力する入出力装置
減」、「調達先の多様化によるリスクの軽減」および「仕様
給電制御
統一によるデータ収集の容易化」などの効果が見込める。
一方、プロセスバス適用の監視制御システムは、従来の監
[変電所 屋内]
GW
視制御システムに比べて構成装置が多く、各装置や伝送路
RedBox
の故障時の故障部位特定に時間を要することが懸念され
SCADA
ステーションバス
る。このため、本システムでは故障部位に応じた運用者へ
IED
の通知を工夫することにより、障害対応が迅速にできるよ
・ ・ ・
うに考慮する必要がある。また、プロセスバスを流れる系
プロセスバス
統電圧・電流値のデジタル信号は約 174 μ s 間隔(サンプ
リング周波数 5760Hz)と非常に短周期で送信されること
から、信号を送信する装置と受信する装置の時刻の認識に
ずれがないよう、高精度な時刻同期を実現する必要がある。
これらの課題を解決するため、当社はプロセスバスを適
※
A系
B系
時刻同期
サーバー
L2SW(A)
時刻同期
サーバー
L2SW(B)
※
GPS
用した変電所監視制御システムの構成、システム監視機能
および時刻同期手法などを検討・整理し、実際の変電所へ
の導入を行った。
A系
B系
A系
B系
・ ・ ・
屋外MU装
[変電所 屋外]
A系
B系
屋外MU装
第 1 図 変電所監視制御システムの構成概要
2
システム構成
ている。回線単位監視制御ユニットである IED(Intelligent
変電所監視制御システムにおける主な構成装置を第 1表
Electronic Device)は当社の従来システムと同様に1系列
に、構成概要を第 1図に示す。平常時は遠隔監視制御装置
としているが、MU は装置の作業停止時や故障時においても
である GW(Gateway)を介して給電制御所より変電所の監
継続運転を可能とするため、2 系列設置しているのが特徴で
視制御を行い、現地運転時には集中監視制御装置である
ある。2 系列設置することにより、将来プロセスバス対応の
SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)を
保護リレー装置を接続する際、MU 故障時においても保護機
用いて監視制御を行う。SCADA は産業用のパソコンを用い
能または制御機能の維持が可能となるため、信頼性確保の
て構築している。このため、ステーションバスの冗長化方
観点からも 2 系列設置している。時刻同期サーバーはプロセ
式として今回適 用した HSR (High-availability Seamless
スバス A 系とB 系でそれぞれ設置した。
Redundancy) ネットワークに接続できるよう、ネットワー
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ク冗長化装置である RedBox(Redundancy Box)を採用し
技術開発ニュース 2025.03/No.169
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