技術開発ニュース No.169

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研 究 紹 介
Introductions of Research Activities
日射制御可能な営農型太陽光発電の
牧草栽培への活用
Forage production in an agriphotovoltaics system
可動式太陽光パネルによる農作物の生育と発電の両立
パネル角度を遠隔制御できる可動式太陽光発電を農地で活用するため、太陽光パネル下
で牧草の栽培試験を実施している。発電量を最大にするモード、影を最小にするモードな
ど代表的なケースでの基礎データを採取できたため、これらを組み合わせ収穫量と発電量
の最適化に向けた研究を実施している。
執筆者
電力技術研究所
バイオグループ
鈴木 伴英
1
背景と目的
太陽光発電は、脱炭素社会の実現に向けた重要な再生可
能エネルギーの一つであるが、国土面積の狭い日本では適
地が限られている。
近年、農地の上部空間に太陽光パネルを設置し、営農を
継続しながら発電を行う営農型太陽光発電は、サカキなど
の日陰を好む植物に対して展開されてきたが、更なる拡大
には日光を好む植物への適用も必要と考える。
一方、営農型太陽光発電は、農地法により地域の平均的
な単収 ( 単位面積当たりの収穫量 ) と比較しておおむね 2 割
以上減収しないことが求められているため、収穫量と発電
量の両立に課題がある。
そこで、可動式パネル下において牧草の栽培試験を行
第 1 図 太陽光発電設備 外観図
い、収穫量と発電量を最適化するためのパネル角度制御方
2 組の試験区には、第 2 図に示すとおり高さ 3.6m の架台
牧草を選定した理由は、①省力的な栽培管理が可能であ
験区で異なるパネル制御方法を用いて比較評価を行う構成
法を見極めることを目的とした。
ること、②品質は他の農作物と比較し影響を受けにくい可
能性があること、③飼料自給率の向上が農林水産省の政策
上に 580W の太陽光モジュールを 40 枚ずつ設置し、各試
とした。
目標の一つとして掲げられていること(2023 年度 27%
→ 2030 年度 34%)1)、④全国の牧草の作付面積は約 70 万
ha と水稲の 134 万 ha に次いで広く 2)、本制御の展開が期
待できることなどが挙げられる。
2
試験内容と方法
(1)試験地および試験設備
試 験は岐阜大学応用生物科学部との共同研究で、岐阜
フィールド科学教育センター内に580Wの太陽光モジュール
40 枚で構成される設備を2 組設け実施している(第1表)。
第 1 表 実施場所および設備概要
(2)パネル角度の制御について
太陽光パネルは南北方向に回転軸を延ばし、東西方向に
実施場所
岐阜大学付属岐阜フィールド科学
教育センター柳戸農場1号圃場
太陽光モジュール
幅2,416mm ×奥行1,134mm
580W×40枚×2組
光パネルが受ける日射量を最大にする角度に制御する。午
システム製造者
株式会社ガリレオ
整する。太陽逆追尾モードは農作物が受ける日射量を最大
各組の各々のパネルは連結されており、1 台の電動アク
チュエーターで全てのパネルの角度を遠隔制御により自動
調整する構造としている(第 1 図)。
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第 2 図 太陽光発電設備の平立面図
技術開発ニュース 2025.03/No.169
角度を調整できる構造としている。太陽追尾モードは太陽
前中は東向き、正午頃には水平、午後は西向きに角度を調
にする角度に制御する。その他、任意に設定した目標遮光
率(影の割合)に応じた角度に制御することや、パネル角
度を任意の角度に固定することも可能である ( 第 3 図)。
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