技術開発ニュース No.169

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研 究 紹 介
研 究 紹 介
Introductions of Research Activities
産業分野における水素燃焼器の紹介
Development of hydrogen burner in the industrial field
水素利用の普及に向けた取り組み
執筆者
産業用水素バーナの独自開発を進め、既存の化石燃料での運転や併用に対応した。さら
に燃料消費量の削減に繋がる予熱空気での運用に対応し、省炭素・脱炭素ニーズに柔軟に
応える。今後もラインナップの拡充などバーナの開発を続け、脱炭素社会の実現を目指す。
先端技術応用研究所
先端技術ソリューショングループ
藤本 貴之・棚橋 尚貴
1
3
技術開発の背景・目的
本研究での取り組み
電化が困難な工業炉の脱炭素化に向けて、水素の燃料利
2023 年度に開発・設置した水素燃焼試験設備および水
用が注目されている。水素は燃焼時に CO2 を排出せず、
素専焼バーナを改良し、併用などの用途拡大に向けた取り
無毒で燃焼維持が容易であるため、脱炭素燃料の中では取
組みを進めた。
扱いやすい燃料であるが、主な課題として危険性 ( 逆火・
炉
爆発の発生 ) や NOX 排出量の増加が知られている。当研究
制御機器類
所では水素燃焼技術の確立に向けて研究を進めており、
2023 年度に安全性と低 NOX 化を両立した水素専焼バーナ
を開発した。
水素バーナ
しかし水素は低発熱量・液化困難な特性から輸送方法も
検討中の状況で、現時点では安定した量の確保が難しい。
そのため、従来の化石燃料での運転や水素併用、燃料消費
量の削減など、柔軟に運用できる燃焼器の開発が求められ
第 1 図 水素燃焼試験設備および水素バーナ
ている。
検 証の結果、安定燃 焼と規制値を大きく下回る NOX 排
2
出量を維持したまま、部品交換なく水素と都市ガス(13A)/
水素燃料の特徴
LP ガスの併用・専焼運転に対応できることを確認した※。
水素の導入段階や供給状況に応じて随時燃料を切り替え可
特長:
能で、省炭素・脱炭素化ニーズに対して柔軟に対応できる。
〇 燃焼時に CO2 を発生しない。
さらに最大 500℃の予熱空気供給に対応させ、この場合
〇 火炎温度・燃焼速度特性から安定燃焼が容易。
熱回収器の温度効率や運転条件、使用環境にもよるが、2
課題:
割以上の燃料消費量削減が期待できる。
でも規制値を下回る NOX 排出量での運用を可能とした。排
〇 人体に対して毒性がない。
〇 逆火・爆発や NOX の増加が懸念されるため、対応する
燃料により配管・機器の一部交換や流量調整等が必要。
※
燃焼技術の確立が必要。
〇 沸点・臨界温度から液化輸送は困難で、発熱量が小さい
ため輸送・供給設備が大容量化する。サプライチェー
ンの整備は検討段階で、現時点では安定した量の確保
は難しい。
第 2 図 火炎の様子
(左:水素専焼 中:水素 / 都市ガス混焼 右:LP ガス専焼)
第 1 表 代表的な燃料の特性
メタン
プロパン
分子式
CH4
C3H8
H2
ガス密度
0.72 kg/Nm3
2.01 kg/Nm3
0.09 kg/Nm3
沸点
-161.5℃
-42.1℃
-252.6℃
臨界温度
-82.5℃
96.8℃
-239.9℃
発熱量(LHV)
断熱火炎温度
35.8 MJ/Nm
1950℃
3
91.2 MJ/Nm
1990℃
水素
3
燃焼速度
0.37 m/s
0.43 m/s
技術開発ニュース No.169/2025-3
可燃限界(空気) 5 - 15 vol% 2.1 - 9.5 vol%
10.8 MJ/Nm
2110℃
4
今後の展開
燃 焼 量や用途に応じたラインナップの拡 充、水素 供 給
3
2.91 m/s
4 - 75 vol%
網の発展に伴うニーズに対応した開発を続け、各種工業炉
への展 開・普及を目指す。 また電 気、 既 存燃料、 水素 燃
焼、およびこれらを組み合わせたハイブリッド加熱によるソ
リューションの提案を通じ、脱炭素社会の実現に貢献したい。
技術開発ニュース 2025.03/No.169
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