技術開発ニュース No.169

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研 究 紹 介
Introductions of Research Activities
ダム監査廊内の保守業務を DX 化する
揚圧力遠隔計測システムの開発
Work improvement by development of lift pressure remote measurement system
現地出向することのない計測業務の実現
執筆者
高根第一ダムに、ダム内部通路内のローカル通信環境を整備し、水圧・水温計測ユニッ
ト、及び、水量計測ユニットを開発し、揚圧力計測システムを実現した。揚圧力計測シス
テムにより、遠隔地への出向及び急勾配、湿潤、狭隘といった現場での作業を排除した。
先端技術応用研究所
情報技術グループ
志水 洋
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ダムの「立地」や「構造」や「環境」は変えられないた
ダム揚圧力計測業務
め、IoT を活用しながら、やり方を変えることで、安全確
保や作業改善にチャレンジした。
ダム揚圧力計測は、ダムの内部通路(以後は監査廊)で
浸透水の水圧、水温、水量を定期的に計測・監視する。ダ
ムの水は、浸透水として岩盤を経由し、ダムを持ち上げる
揚圧力として働く。これに起因する浸透水の水圧、水温、
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自動化へのチャレンジ
水量を監視し、ダムの健全性を維持している。計測は、年
自動化の目標は、「ダムに現地出向することなく」計測
4 回、監査廊内の各ポイントにて行う。高根第一ダム ( 第 1
業務を実施することである。しかしながら、年 4 回と利用
図)を例にとると、監査廊は、深さが 133m、幅は 276m
頻度の低さから採算性も両立する必要があり、検討の結
あり、計測箇所は 76 箇所にも及ぶ。
果、内製を基本として開始した。開発には、「ダム内部通
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路のローカル通信環境の整備」、「水圧・水温計測ユニット
監査廊
の開発」、「水量計測ユニットの開発」が必要であった。
計測ポイント(76箇所)
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第 1 図 高根第一ダム
(1)ダム内部通路のローカル通信環境の整備
ダム管理事務所には、社内 LAN や制御 LAN の設備が用
意されていたが、開発当初は実験的な側面もあり、既存業
務への影響、回線延長のコスト、セキュリティといった面
を考慮し、LTE 回線を利用した。ダム管理事務所近辺は微
弱な電波が入るが、監査廊入口は圏外であった。LTE の利
ダム揚圧力計測業務は、車で遠隔地に出向し、急勾配で
用には、ダム管理事務所と監査廊入口の 300m の距離が壁
濡れた階段を徒歩で移動しながら、狭い作業スペースで中
となる。監査廊内部は、狭く曲がったトンネルのため、直
腰になり、水圧、水温、水量を計測する。( 第 2 図)
線的な見通しがきかず電波は届きづらい。
LTE 回線は、通信事業者 2 社の電波状況を比較し、かろ
うじて通信できる事業者を選定し、最適なアンテナ設置
場所を決定した。ダム管理事務所から監査廊入口までの
300m は、コストを抑えるため、有線 LAN ではなく、汎用
無線機で中継した。監査廊内部は、WiFi を仮設置し電波状
況を確認しながら、最少の台数の無線機の設置箇所を見出
した。これらの対応により、監査廊内で 1Mbps 程度の音
声通話が可能なレベルの通信品質を確保した。
(2)水圧・水温計測ユニットの開発
計測業務は、監査廊の中で温度計を用いた水温計測を行
う。圧力計測の前後には手動バルブ開閉を行う。また、圧
力計を用いて、計測値を記録する。現状は全ての作業を人
第 2 図 ダム揚圧力計測業務
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技術開発ニュース 2025.03/No.169
手で行っているため、既設の装置は人手の利用を前提とし
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