中部電力初の水力発電VPPAで、 再エネの未来をつくる
~将来にわたって高効率な運転を実現する、安倍川本流初の水力発電建設プロジェクト~
- PROJECT MEMBER
- 電気工事担当 M.M / 販売担当 A.K / 土木工事担当 T.C
2025年4月に運転を開始した中部電力201カ所目の水力発電所、それが静岡県静岡市・安倍川水系安倍川に位置する「安倍川水力発電所」である。発電出力7,830kWの中規模水力発電所の建設。昨今は小規模の水力発電所が主流となっていた中、なぜ開発を始めたのか。そこには、建設技術の探求から新しい販売方法の確立まで、世界的に高まる再生可能エネルギー需要に将来にわたって応えていくための、これまでにない挑戦があった。
PROJECT FLOW
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01.2012年頃~ 地点選定
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02.現地調査
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03.概略設計・経済性検討
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04.行政協議・詳細設計・地元交渉
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05.許認可
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06.2020年 工事着手
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07.土木工事
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08.2024年 電気工事・販売戦略
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2025年 運転開始
PROJECT POINT
CHAPTER 1
新たに動き出した水力発電所建設に託されたもの
土木工事担当 T.C
水力発電は、水大国・日本にとっては自然の恵みを最大限に活かせる発電方法である。特に、標高の高い山脈が縦断する中部地方は大きな河川がいくつもある、国内でも特に水に恵まれている地域のため、山間部に数多くの水力発電所が建設されてきた。
しかし、大規模な水力発電所の建設は2000年代以降減少傾向にあった。それはなぜか。一番の問題は経済性だった。建設しやすい場所から開発が進んだことにより、残すはコストのかさむ奥地ばかりになっていた。
「安倍川本流は、過去何度も開発計画が持ち上がっていました。しかし、どれも実現しなかった。静岡県の河川は土砂が多いんです。構造物の摩耗が激しいなど、維持管理コストが他所よりもかさんでしまい、経済性が悪くなる。そこが課題のひとつでした。」
ところが、時代の変化によって、水力発電を取り巻く環境は一変した。
一つは世界中で加速する脱炭素化。国家をあげて再生可能エネルギーの使用が推奨されており、大企業を筆頭に需要が高まっている。それに伴い、政策・補助金なども次々と登場している。
二つ目は、技術開発の進化。摩耗に強い素材の誕生など、建設が困難といわれた状況を打破するきっかけが見つかった。
「課題のひとつだった構造物の摩耗については、当社の技術開発部門や建設メーカーなどと協議を重ねていきました。最終的には、摩耗の影響を特に受けやすい排砂路については上流から下流へ4種の素材を使い分けて施工することになりました。単体での使用は過去の発電所建設でもありましたが、複合的な採用は今回が初めてです。実は、将来的に同一の摩耗対策を他の発電所にも水平展開できるか、消耗具合を継続観測する狙いも含んでいました。初期コストは高いですが、将来的な維持管理コストが下がれば、経済合理性が見出せます。このように、水力発電所建設においては、構造物の形状や材質など他にもいろいろな研究・検討がおこなわれています。こうしたさまざまな検討を積み重ね、環境条件を十分考慮したうえで最適な構造物の形状、レイアウトを決定していきます。」
最後にもう一つ。Cさんをはじめ現場で働く多くの社員が意識している「後進への継承」の強化だ。
「社内で大規模な水力発電所建設に携わった経験があるのは、50~60代のベテラン層になっています。もちろんマニュアルや過去のノウハウは、全て資料として蓄積されています。ですが、今回自分自身で現場に赴き、さまざまな事象に遭遇すると“現場経験値”の重要性を痛感しました。」
現場で接するのは当社の社員だけではない。施工協力会社、自治体職員、地域住民など多様な立場の人と折衝が必要になる。トラブルが起きたとき、指揮を執る立場としてどう立ち回るか。より良い関係性を築くために相手とどう向き合うか。こればかりは資料だけで学べるものではない。経験のある社員と共に現場に立ちながら、行動を見て学び、成長していく。技術や知識、現場での経験を吸収し、継承していく。経験者の高年齢化が進む中で、Cさんは「今、自分たちの世代が着実に経験を積むことが、後の水力発電所運用に大いに役立つと思う。また、次は私たちの世代がそうした責任ある立場になっていくことこそが、技術者としての責務である」と語る。ベテランから若手へ、その全てを託していく。安定した電力供給に向けて、水力発電エキスパートの血脈が今確かに受け継がれている。
CHAPTER 2
求められるのは1/100ミリの誤差なき仕上がり
電気工事担当 M.M
水力発電は、水が高い位置から低い位置に落ちるときの位置エネルギーを利用して水車を回し、発電をするしくみである。貯水池に設けた取水口から導水路・鉄管を通して水車に水を送り、水車と連結した発電機が電力を作り出す。
安倍川水力発電所では、中部電力では4例目となる「両掛けフランシス水車」が採用されている。一般的には1つの水車で発電するが、この方式では2つの水車が1台の発電機に連結している。これは安倍川の流量に最適化したものだ。安倍川は年間を通して見ると流量の変化が大きい川で、雨が降って水が増えたように見えても、あっという間に減水してしまうのだ。
「安倍川水力発電所は最大流量7㎥/s、水車1台あたりは3.5㎥/sの流量で運転しています。3.5㎥/s未満の流量時は単輪運転、流量が増えると両輪運転に切替わります。両輪―単輪の切替えは両掛け水車特有の制御となるため、切替制御設定の検討には苦労しました。」
数値で見るとはっきりしているが、単純に3.5㎥/sを超えたら両輪に切替えるとはいかないのが現実だ。3.5㎥/s前後の流量時、切替えが頻繁に繰り返されると、水槽水位・出力が安定せず発電効率が落ちてしまうためである。不要な切替えを繰り返させず、安定して運転させるために条件をどうするか。取水量が増方向時・減方向時など複数の流量パターンを想定し、単輪から両輪・両輪から単輪それぞれのガイドベーン開度や切替確認時間を綿密に設定していった。電気系統の制御については、机上シミュレーションを重ねに重ね、計算上うまくいくことを確認してから実機の試験に移る。実機での動作を確認できるのは現場だけ。しかし、安倍川水力発電所の有水試験時は渇水期で河川流量が少なく、3.5㎥/sの実環境で最終試験がおこなえないという問題に直面した。
「そのときに取水できる流量を最大として切替点を下げ、模擬して切替確認試験を実施するように方針を変更しました。理論上はうまくいく想定でしたが、ハラハラしましたね。運転開始後、流量3.5㎥/s付近時の切替えが問題なく制御できていることを確認できた時はホッとしました。」
加えて、両掛けフランシス水車の場合は据付工事も大変だった。なにしろ、社内では過去に数例しか施工事例がない。何度も過去の設計図を確認するなど苦労を重ねた。
「電気工事は何よりも正確性が求められます。例えば、土木工事では設計図から数cmの誤差は許容範囲とされています。しかし、電気工事は1/100mm単位で調整が求められます。固定部である鉄管や水車ケーシングと回転部である水車発電機軸の位置関係がズレてしまうと損失が大きくなり、水車効率が落ちてしまいます。最悪の場合、固定部と回転部が接触して回転できない可能性もあるため、責任重大です。しかも今回は水車が2台あり、より難易度が高い。限られた工期の中で、2台を設置するのは大変なミッションでした。」
水車に繋ぐ鉄管は、据付工事の結果、設計図から数cmのズレであれば許容範囲内だという。そこまでは想定内だが、今回は2台。もちろん2台の水車ケーシングに繋ぐ鉄管のズレ方はそれぞれ違ってくる。傾きやズレを上手く利用してすべてが許容範囲に入るように据え付ける、そこには高い技術力が求められる。安定した水力発電のために、裏ではさまざまな工夫を凝らしているのだ。
「工期の終盤にあたる電気工事は、配置人員が少なく、限られた人員でやり切る必要がありました。安倍川水力発電所では3名。若手であっても裁量は大きく、自分の考えや判断が常に求められます。各工程の担当が繋いできた工事のバトンを受け取り、予定どおりに運転を開始できるよう短い期間で成果を出す。責任も大きいですが、この現場を経験できたことは今後の自分の糧になると感じました。」
水力発電所は建てて終わりではない。Mさんは今、安倍川水力発電所を含めた静岡県内の水力発電所の保守に従事している。長期にわたり安定した電力を供給するために、技術・知識の研鑽は今日も続いている。
CHAPTER 3
環境価値を活用する、
新たな販売スキームの確立
販売担当 A.K
安倍川水力発電所では、中部電力初の水力発電「オフサイト型バーチャルPPA(以降VPPA)」を採用。これは、安倍川水力発電所で発電された電気から“環境価値”のみを切り分けて提供するものである。契約した企業は、環境価値を購入することにより、当社の脱炭素目標達成に貢献し、CO2削減の取り組みなどを積極的に発信できるようになる。
これまで一般的であった「オフサイト型フィジカルPPA」では、電気とその電気由来の環境価値をセットで取り引きするため、契約した企業は、当該発電所で発電した電気を同時に消費する必要があった。しかし、操業時間や休業日など、生産ラインの稼働状況により電力消費が変動するため、再エネ電源の導入量に制約が生じ、効率的な活用が困難になるという課題があった。
一方で「VPPA」では、発電した電気を同時消費する必要がなく、各企業は、生産ラインの稼働状況・昼夜・季節などによらず、柔軟かつ実質的に再エネ電源で発電された電気を使用することが可能となるのだ。
「オフサイトコーポレートPPAについて」(環境省)https://www.env.go.jp/content/000220121.pdf を加工して作成
とはいっても、元々VPPAありきで話が進んでいたわけではない。
「元々、安倍川水力発電所はFIT制度で工事計画の認定を取得しました。FITは国が定めた固定価格で送配電事業者が再エネ電源で発電された電気を買い取る制度で、基本的には、特定の企業が特定の発電所由来の環境価値を購入することはできません。安倍川水力発電所の環境価値は、当初FITを活用し販売する計画でした。」
しかし、時代はめまぐるしく変化する。国がエネルギー基本計画にて再生可能エネルギーの意欲的な導入目標を掲げたことに加え、社会情勢の変動によるコスト上昇を背景に、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を目指す動きが活発化した。それに伴い、水力発電への期待も一層高まった。こうした変化に対応するため、建設工事の開始後も水力発電由来の環境価値を最大限に活用し、事業安定性の向上を図るための更なる検討が続いていた。
FIP制度:FIT制度のように固定価格買取ではなく、市場価格相当に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度 「FIP制度について」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/setsuden_dr/pdf/001_02_08.pdfを加工して作成
「環境価値に関する制度設計は、過去から議論が重ねられており、今現在も変化しています。
国の検討状況を随時確認し、どういった制度活用が効果的か、日々考えていました。
そうした中で、環境価値の評価をより高められるとたどり着いたのが、FIT制度からFIP制度へ転向し、更にVPPAを活用することでした。
VPPAを採用すれば、安倍川水力発電所の環境価値に魅力を感じていただけるお客さまに、長期継続して調達いただくことができます。」
FIP制度では、電気や環境価値の売り先を自由に検討することができる。VPPAの活用により、高まる再生可能エネルギーの長期調達ニーズに応えつつ、安定的な収益を確保できるのである。しかし、その方針転換がおこなわれたのは運転開始が迫る2024年の夏だった。
「運転開始日は2025年4月と決まっていたため、急ピッチで調整の日々でした。販売スキームに関する協議、法令や制度への対応、運転開始後の発電所の運用、環境価値の管理方法など取り組むことは膨大でした。しかし、運転開始日の後ろ倒しはできません。参画いただいた企業数も多く、1日でも遅れれば各所に多大なご迷惑・影響を与えてしまいます。電力販売会社および社内関係各所と連携を深め、着実に一つずつ遂行していきました。」
VPPAという一般的に浸透していない新たな販売方式のため、地元への説明にも細心の注意を払う必要があった。Kさんは「地域の皆さまのご協力があってこその発電所建設であるため、しくみをご理解いただくことは必ずクリアしなくてはいけない課題でした」と当時を振り返る。
「水力発電のVPPAは当社での前例がない上、多くのお客さまが関わるプロジェクトであったため、何が最適な選択なのか非常に頭を悩ませました。電力販売会社とのやり取りの中では、環境価値を購入いただくお客さまの先にも多くの関係者がいることを知り、各所との交渉・調整がいかに大切か改めて実感しました。事実や制度の理解度を高めるほか、リスクを的確に感知し、迅速に判断することを意識して取り組みました。本プロジェクトを通して、視野が広がり、さまざまな立場や視点から物事を考えられるようになったと感じています。」
各所への調整を重ね、無事に形となったVPPA。安倍川水力発電所では今後20年間、契約企業に環境価値を提供していくこととなる。供給面での安倍川水力発電所は、今スタートしたばかりだ。
CHAPTER 4
水力発電の未来に向けて
再生可能エネルギーの社会的需要はますます高まっていく。一方で、水力発電所の適地が限られてきているのも現実だ。しかし、今は難しい状況であっても、今回のように将来的な技術の進化によって新規開発が可能となるケースもあるだろう。
未来に向けて今、すべきことを。当社は新設電源開発だけではなく、稼働中の水力発電所のリプレースによる発電効率の向上にも挑み続けている。
培ってきた技術に、新たな知見を積み重ね、繋いでいく。中部電力の水力発電への取り組みは、まだまだ終わらない。
(掲載内容は、取材当時のものです。)