課題解決の鍵はモビリティ。 自分たちの手で街の未来を作り出す

~地域交通から街の活力を生み出す、中電MaaSプロジェクト~

PROJECT MEMBER
S.H

2025年11月、新たな事業がスタートした。第三者と効率的にタクシーをシェアして、お得に乗車できるオンデマンド相乗りタクシーサービス、通称「中電MaaS(注1)」だ。名古屋市瑞穂区の「iiNEタウン瑞穂」を中心に展開するこのサービスを、中部電力は出資ではなく自らがフロントプレイヤーとなり取り進めている。電力会社がなぜモビリティ事業を立ち上げることとなったのか。そこには地域の未来に目を向ける真摯な想いがあった。
(注1) MaaS:「Mobility as a Service」の略称。公共交通機関やタクシー、カーシェア、シェアサイクルといった多様な移動手段を、スマートフォンアプリなどを通じて一元的に検索・予約・決済できるサービスを指す。実際には、そうしたサービスを活用できるプラットフォームを指す場合と、オンデマンドのバスやタクシーそのものを指す2つの意味で使用されている。

PROJECT FLOW

  1. 01.
    地域交通プロジェクト始動
  2. 02.
    MaaS用のシステムを販売
  3. 03.
    次の一手の模索
  4. 04.
    2025年4月 
    中部電力不動産事業本部設立
  5. 05.
    不動産事業との連携を検討
  6. 06.
    中電MaaSの土台ができる
  7. 07.
    外部協力会社の
    選定・スキームを具体化
  8. 08.
    2024年 電気工事・販売戦略
  9. 2025年11月~2026年3月 iiNEタウン瑞穂にて取り組みを開始

PROJECT POINT

  • Check01 地域交通は危機的状況
  • Check02 ゼロからのスタートだからできたこと
  • Check03 「事業」にしていくミッション

CHAPTER 1

危機的状況の地域交通に、中部電力は何ができるのか

地域交通(注2)は地方を中心に、利用者の減少や運転手不足に加え、採算の悪化によって廃線の動きが進むなど、危機的な状況にある。しかし、通勤・通学、通院、買い物と、地域交通は生活になくてはならないものだ。若者の都市部流出により高齢者人口比率が高まる中山間地域では、すでに地方自治体や交通事業者がさまざまな対策に乗り出している。中部電力もそんな危機的状況をかねてから把握しており、地域交通事業への取り組みを始めていた。
(注2) 地域交通:自家用車を使わない住民の、通勤・通学・買物・通院などの日常生活を支える公共交通機関のこと

「私が事業創造本部に加わったとき、モビリティユニットではコミュニティサポートインフラの改善を軸にしていました。当時は、シンガポールの企業が開発した“MaaSのルーティングシステム”の販売営業をおこなっていて、主な販売先は地方の自治体やバス会社などでした。こうした取り組みを足掛かりに、将来的には、電力会社と親和性の高いEVの普及拡大を視野に入れていました。しかし軌道にまでは乗っていないのが現状でした。」

近年、観光業界を中心に「MaaS」がバズワードとなり、多くの取り組みが発表されている。しかし実際には、関係者の多くが「MaaS」は採算性が難しい事業だと口をそろえて指摘しているのが現状だ。そうした中で、なぜ中部電力が主体的に「MaaS」を始めることになったのか。「逆境だからこそ、私たちが取り組むべき事業だった」とHさんは語る。

「地方の交通網はジリ貧です。しかし、ここで途絶えてしまっては、地域の衰退がますます進んでしまいます。それはこのエリアで電力を供給している中部電力としても相当の痛手です。地域のお困りごとを真に解決し、支えなくてはいけない。人が住み続けられる街を作っていかなくてはいけない。それが地域の皆さまと共に事業を展開してきた私たちの使命だと感じました。」

生活に密着する事業の重みを、中部電力は知っている。「インフラ事業は着手したら簡単に撤退は許されない。それが例え交通インフラであっても、電力と同等に向き合うべきだ。」交通事業を始める以上、採算がとれないので撤退しますとは簡単には言えない。地元の信頼を失うことにもなりかねないからだ。 「地方の大きな会社であっても、交通事業は採算性の面からが手が出しづらいのが現実です。しかし、当社が持つアセットと組み合わせることで、将来的には採算性を向上できる可能性がある。そんな私たちだからこそ、今、取り組むべきなんです。」

そこで、事業を開始する拠点についても、検討を重ねた。

「事業として収益は必ず上げなくてはいけない。そのジャッジは非常に難しいものでした。本来ならば、交通インフラの維持が危ぶまれるような超過疎地での運用が理想的ですが、正直いきなり取り組むにはハードルが高すぎる。そこで、まずは都市部で検証をすることにしました。」

舞台として選ばれたのは、2025年に名古屋市瑞穂区に誕生した「iiNEタウン瑞穂」。「住・商・憩」を備える多世代共生の街として、グループ会社の中電不動産が開発したコミュニティタウンである。ここは名古屋市内だが、交通アクセスが路線バスに限られているエリアである。そんな場所で、ショッピング施設、医療・介護・子育て施設、マンションで構成されているiiNEタウンに人を呼び込むために、私たちが提供する「MaaS」はどうあるべきか。外部から訪れる人と住民、それぞれの移動ニーズに応じて、効率的で家計にもやさしい交通手段を提供するために、計画を練っていった。

「中部電力が進めるMaaSとは、“オンデマンド乗合タクシー事業”です。タクシーに乗りたい人が専用アプリを通じて利用を申し込むと、近くを運行するタクシーが迎車し、利用者をそれぞれの目的地で乗降させながら運転します。中電MaaSは、相乗りすることでコストを落として収益を上げるビジネスモデルのため、相乗りにならないと意味がありません。利用用途を広げるために、商業施設と共同住宅が併設するiiNEタウンを実証地に選びました。」

現在、商業施設が提供する商業MaaS、ディベロッパーが提供する共同住宅用のMaaSなどが存在しているが、複合したMaaSはめずらしい。これまでMaaSが爆発的に成功してこなかった他事例を踏まえ、より成功する道を模索しているのだ。

CHAPTER 2

ゼロから始めたからこそたどり着いたプロジェクトの形

「中電MaaSを形にする上で、中部電力自体が交通事業の当事者でなかったことが効果的に働いた、と感じています。私自身もキャリア採用で入社しており、従来の前提や慣習にとらわれずに企画できたことも、このプロジェクトではプラスに働いたと思います。」

Hさんは、複数社を経験し中部電力に転職した。それまでは、モビリティ分野に携わったことはなかった。入社と同時に事業創造本部に配属。コミュニティサポートインフラ事業を新たに進めるにあたり、立ち上げから携わることになった。ミッションとして与えられたのは「地域交通分野であること」のみ。何ができるのか、まずは地道に調べることからスタートした。

「良い意味で、私は中部電力の伝統的な企業文化に染まっていませんでした。そして、事業創造本部自体も、既存の枠に収まらないアイデアを求め、受け入れる風土があった。そこが合致したことで、自由に物事を考え、選定していくことができました。」

そう語るHさんだが、その自由な環境に驚きもしたという。「しっかりと企画が練られ、意義を説明できるのであれば、やってみれば良いという懐の広さは、他社にはなかったですね。もっと頭でっかちな会社と思っていました。」と入社時を振り返った。
そうした中で企画を進めていたが、当初は現在とは違う形のプロジェクトを思い描いていた。

「最初は子ども専用MaaSを企画しました。地域の子どもたちの多くは、放課後に同じ習いごとのスクールに通っています。そうした子どもたちを相乗りサービスでピックアップすることで、利用が見込めると考えました。しかし、そうこうしているうちに社内で不動産事業本部が立ち上がるなど状況が変化していきました。そして、当社の事業と関連した事業開発として、複合的な環境で運用する中電MaaSへと転換することになったんです。」

それが2025年に入ってからのこと。そこからプロジェクトは急ピッチで動きだす。

「中電不動産、分譲マンションの販売会社、タクシー会社と話を詰めると同時に、システム開発企業を探しました。今回は名古屋市に誕生した、オープンイノベーション拠点であるSTATION Aiを通じたリバースピッチ(注3)に参加しました。そこで、相乗りサービスを展開するベンチャー企業とマッチングし、蓄積された知見も借りながらプロジェクトを進めることになりました。」
(注3) リバースピッチ:企業や投資家などがスタートアップ企業に対して、自らアイデアや事業計画を短時間で説明し、ソリューションの提案を募るイベント

ここまでわずか数ヶ月。フットワークの軽さ、意思決定のスピード感も、中部電力の新規事業開発の特徴かもしれない。

「加えて、これまで他社が推進するMaaSが大きな成功を収めてこなかった理由も検証しました。そうした中で私がたどりついたのがプロモーションです。」

「MaaSは地域交通の不足という課題を解決し、利用者にも利便性や経済面でメリットが大きい。ですが、第三者から見るとその利点がうまくPRされていないと感じました。」

そこで今回はどういったプロモーションを行えば、ユーザーの利用が見込めるかまで入念に検討をした。「中電MaaS」という名前もその一つ。中部電力の名前が持つ信頼を活かすためである。

「例えば、地方在住の私の両親でも”中部電力”という名前は知っています。そんな会社が提供するサービスとなれば、それだけで安心感が増す。当社にはそれだけのネームバリューがあるのです。」

地元で築き上げてきた信頼に、外部機関から得た交通システムの知見を重ねることで、今までにない新たな価値を創造できる。これこそが、中部電力が新規事業の開発に取り組む核心であろう。

CHAPTER 3

実証から、事業化させていくために

中電MaaSプロジェクトは、今はまだスタートしたばかりである。検証を経て正式に運用を開始し、他の地域へと展開していく。道のりは長く、今はまだバラ色の未来が広がっているとは言えないかもしれない。それでも中部電力なら、さらに新しい展開も模索していけると感じている。

「全く分からない分野に進出するときは、いくら机上で考えていても分からない。今までもそうだったんだから、まずはやってみたらいい。事業創造本部にはそうした空気があります。やって勉強する。次に活かせるなら失敗でもいい。だからフルスイングでおこなってこい、と言われたことで、柔軟に考えることができています。」

Hさん自身はキャリア採用だが、事業創造本部には、新入社員も配属されている。「新規事業なのだから、経験値はなくて当然。私も、新人も、スタートは同じです。それよりも、自分から進んで動いていく意欲の方がここでは求められる。」実際、Hさんのチームにも新入社員が配属され、着実に仕事の幅を広げている。

「事業創造本部には、他にも社内の他部署で経験を積んだメンバーと、他業種をから転職してきたメンバーとが混在しています。多彩なバックグラウンドを持つ人間がアイデアを出し合うからこそ、新たな化学反応で新しいチャレンジができています。」

中電MaaSもそうした刺激を受けて、大きなロードマップを描いている。

「まずは相乗りサービスの利用者を増やし、収益性を確保することがスタートです。その後は、独自のプラットフォームの精度を高めると同時に、EVを移動手段に組み込むなど、中電MasSをより発展させていきたいと考えています。」

当初検討していた子ども専用MaaSも、事業が軌道に乗れば取り組んでいける。まずは基盤を確立させることが重要だ。しかし、Hさんの描く未来絵図はそこで終わらない。ゆくゆくは、未来のモビリティを変える取り組みに拡大していきたいと話す。

「最終的な目標は、交通空白地をなくすことです。地域のどこにいても、困らず移動することができる。そうした街をつくることが、今後を生き抜くために必要です。そのためには、例えば空飛ぶクルマにも参入できたら面白いですよね。空飛ぶクルマは電動のため、当社の事業とも親和性が高い。相当の電力を消費するので、実現には電力会社の関与は欠かせません。それを自分たちが主体となって動けたら、また一つ新しい未来が実現できます。」

果たしてどんな未来が作り出せるのか。中部電力のモビリティへの挑戦はまだまだ始まったばかりだ。

(掲載内容は、取材当時のものです。)

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