持続可能な農業を次の世代へ、 電力会社が挑む米づくり

~新たなサプライチェーンの構築を目指す、低環境負荷米プロジェクト~

PROJECT MEMBER
R.I

当社は2023年から米づくりに取り組んでいる。「電力会社が米づくり?」多くの人が疑問に思うことだろう。これは、ただの米づくりではない。育て方も、売り方も、既成概念を捨てて、稲作を通じて未来を創っていく食農プロジェクトだ。電力事業を主軸とする中部電力にとって、専門外の領域である米づくり。私たちはそこに注目し、新たな道を模索している。

PROJECT FLOW

  1. 01.
    2023年 農業ベンチャー
    「NEWGREEN」と出会う
  2. 02.
    2024年 
    「NEWGREEN」への出資開始・
    愛知県名古屋市で実証実験開始
  3. 03.
    2025年
    実証実験を愛知県・三重県
    ・長野県の3拠点に拡大
  4. 2026年 栽培規模を拡大、
    新しいサプライチェーンに関わるプロジェクトに参画予定

PROJECT POINT

  • Check01 電力会社で米づくり
  • Check02 農業は今が進出の好機
  • Check03 めざすは流通の変革

CHAPTER 1

電力会社なのに農業!?多くの人が驚いた挑戦

中部電力が米づくりを始める。
このニュースは、各所に大きなインパクトを与えた。社外はもちろん、社内からも疑問が寄せられた。
当社では電力事業の枠を超え、さまざまな新規事業に取り組んでいる。そのほとんどは電力事業に何かしら関連していたが、米づくりは違う。全くの新しい取り組みであった。

「新しい事業の柱を創ることが重要です。既存の枠にとらわれず、新しい強みを生み出すことに価値を見いだし、動き始めました。」

本プロジェクトメンバー3名のうちの1人、Iさんは語る。
環境負荷を抑えた米栽培を通じて、持続的な農産業モデルを創出するプロジェクトが始動したのは2023年。なぜ、電力と全く関係のない「米」にたどり着いたのか。

「元々、事業創造本部には食農に関するアグリネクサスユニットがあり、完全人工光型のレタス工場の設立・運営に取り組んでいました。並行して他の事業を検討していたところ、プロジェクトメンバーの1人が農業フォーラムに参加。農業ベンチャー企業 NEWGREENの取り組みを知ったんです。新たな形の農業を広げる話に、インフラ企業だからこそできる持続的な農業や地域における価値創造を目指し、出資の話が持ち上がりました。」

完全人工光型のレタス栽培は多くの電力を消費するため電力事業との親和性が高く、新規事業として自然な流れだ。一方で、米は露地栽培であり、電力を消費するイメージは沸かない。だが、そこには、電力消費だけではない中部電力ならではの参入意義が存在した。

「一般的に新規事業は少なくとも2~3年で黒字化させる必要があると言われています。さらに、農業は設備投資が高額で、利益率が高くないと業界とも言われています。特に年1回の収穫となる米を収益化させるには、長期的な視点が必要です。当社の基盤事業である電力事業は膨大な設備投資をおこなっており、長期スパンで事業計画を描いてきました。だからこそ、腰を据えて挑む米事業こそ、私たちに相応しいと判断しました。」

利益を上げながら、農業の課題解決に取り組むという大きな目標のため、まず進めたことは、協力者探しだ。

「まずは社内で、地域・社会が抱えるさまざまな課題を解決に導く活動をしながら地域に密着している部門のメンバーに相談しました。農地は自治体から借りなくてはならないため、彼らと協調しながらいろんな自治体へ足を運んだ結果、新城市で栽培実証をおこなうこととなりました。」

現地の生産者との対話を通じて、当社の存在価値を実感した。外部からの提案に慎重な姿勢を示すことが多いなかで、中部電力の名前があることで、信頼できる会社として受け入れてもらいやすかったと、Iさんは話す。
種まきや収穫などの機械作業は地元生産者に委託し、当社では栽培管理や拠点運営、事業企画、マーケティングなど事業を支える役割を担う形で実証栽培を開始した。
現在取り組んでいるのは、生産性向上と環境負荷低減が実現できる「節水型乾田直播栽培」だ。
通常、水稲栽培は以下の工程でおこなわれる。

節水型乾田直播栽培は、浸種・育苗・代かき・田植えをおこなわず、耕した田んぼに直接種籾をまいて稲を育てる方式である。基本的に水を張る必要はなく、水管理も省力化できる。これにより、従来栽培工程の約7割を削減できる。

「節水型乾田直播栽培では、作業工程を減らし、生産性を高めることが可能になります。菌根菌やビール酵母資材などのバイオスティミュラント資材(注)を組み合わせることで、水を張らずに栽培することができます。さらに、この栽培方法は、環境負荷を低減できるメリットもあります。再生可能エネルギーの企業需要が高まっているように、低環境負荷で生産されたという付加価値を持つ商品は、今後注目が高まっていくと見込んでおり、その点でも事業価値があると考えました。」 (注)従来の農薬、肥料、⼟壌改良資材とは異なる新たなカテゴリーの資材で、栄養吸収効率の改善、環境 ストレス耐性の向上などの効果が期待されるもの

この栽培方法により、田んぼに水を張らないことでメタンガスの発生を抑えられる。25年度の栽培実証では、3月の種まきから6月下旬まで一度も水を張らずに栽培を進めた。技術連携するNEWGREENの試算では、およそ77%のメタンガスが削減できるという。
新しい挑戦は、確かな手応えを伴う船出となった。

CHAPTER 2

農業を次世代に繋げるために、今が絶好の機会

「2025年度は環境の異なる3地点で栽培をおこないましたが、期待していた収穫量には達しませんでした。」

いきなりの難題だ。2025年は空梅雨で雨量が想定より少なく、生育が思うように進まなかった。自然を相手とする農業の難しさを痛感した。「地元生産者の皆さんからは、“最初から上手くはいかない。失敗しても改善点が分かってよかった”と励まされました。」
さらに、生育管理でも課題があった。拠点が点在しているため、現地訪問の時間を充分に確保できず、あっという間に手遅れになる、ということもあった。除草剤を適切なタイミングで散布できなかったことが生育を悪化させた一因であり、日々成長する作物を扱う農業においてスケジュール管理がいかに重要かを学んだ。

「何よりも、私たちの米づくりは地元生産者の皆さんの協力なしではおこなえません。委託契約を締結していますが、生産者の皆さんは、自分の作業の合間を縫って、私たちの米づくりに協力してくださる。私たちが担う農薬散布機械を借りる手配、降雨時の日程調整や、イレギュラー対応時の新たな機械の借用など、細かい調整が必要で、簡単にはいきませんでした。」

収穫量の確保という課題に対しては、次年度に向け対策を講じている。その一つが新技術の導入だ。
次年度はNEWGREENが提供する土壌改善AIサービスや雑草防除サービス利用し、土壌品質を改善するとともに、雑草管理を最適化して、収穫量の最大化を目指していく。農業とデジタルは縁遠い世界に感じるかもしれないが、人工衛星データとAI分析による生育予測や生育状況に合わせた除草剤の散布指示など、農業分野ではデジタル変革が進んでいるという。

「農業分野のシステム開発は、すでに専門企業が取り組んでいます。そこに私たちが単独で進出するのは、採算面でもハードルが高い。だからこそ、今後も農業のプロと連携し、最適なシステムを選んで現場に導入する方針です。」

加えて、耕作放棄地の増加問題にも取り組んでいる。これはシステムでは解決できない問題だ。どのようにして既存の農地の稼働率を高め、収益を上げていくかも肝心だ。

「今、高齢化や跡継ぎ不足を背景に、収益性が低く手間の掛かる農業を辞める人が増えています。その土地は、各地域の担い手の方や農業法人に託されています。しかし、それも預かりきれなくなってきているのが現状です。私たちの実施している節水型乾田直播栽培なら労力を減らすことができ、経営可能面積の拡大に貢献できると思っています。」

Iさんは、このプロジェクトを通して、農業の未来にも強い思いを抱くようになった。

「これまで農業がスケールアップしていなかった理由の一つは、農業技術を継承できなかったことにあると思います。機械やシステムを上手に活用し、誰が取り組んでも安定した成果を出せるしくみを整えることも重要です。コストが下がれば、収穫量が多少落ちても利益は生まれます。担い手を増やし、農業を産業として成立させ、持続可能なものにすることが、日本の米づくりには不可欠だと思います。」

実際、農業高校の教員から、農業を志す生徒がいても受け入れ先がないと耳にする。一方で、大企業が農業関係の求人を出すと想定を遙かに上回る応募があるという。初期投資が必要な農業は、気軽に始めることが難しい。農業従事希望者がいないわけではなく、受け皿がないのである。
このプロジェクトが軌道に乗れば、ゆくゆくは事業規模の拡大、農業従事者を雇用する子会社化まで見えるかもしれない。そうすれば地域へもさらに貢献できる。ただの米づくりではない希望が詰まっているのだ。

CHAPTER 3

収穫のその先に、新たな商流を創りたい

現在は、栽培から収穫まで栽培実証に取り組んでいるが、事業として利益をあげていくために、その先のスキーム設計も進めている。

「理想は、新たなサプライチェーンの創出。そこに当社は、産地立地が必要になるアセットを整備し、流通事業をおこなっていきたい。そのために現在は、環境負荷を下げられるという付加価値を持つ低環境負荷米のサプライチェーンを構築したいと考えています。」

低環境負荷米の需要がどれほど見込めるのか、わからないままでは生産者側の参入が得られない。事業化するには、その課題を解決しなくてはならない。 企業がどれくらいの量が欲しいか提示し、生産者がその企業のために低環境負荷米を生産する。その米の物流に中部電力が携わる。理想はそうした未来図だ。

そして「農業が活性化すれば、実は電力事業の明るい未来にも繋がる」とIさんは考える。

「中山間地域の自然環境の維持は、農家の尽力によってなされています。山を通る水路を掃除したり、草刈りをしたり、人の手が入っていることで、平野の田畑まで水が流れてくる。離農が増え、そうした機会がなくなると、洪水や土砂災害が増える可能性も高まります。こういった観点からも、人が住んでいるエリアを住み続けられる状態で保つことが大切です。このプロジェクトによって地域に活力が生まれ、人を集めることができれば電力需要が長期的に安定することにもつながります。」

目指すゴールは大きいからこそ、今後の可能性は米づくりだけではとどまらない。

「この事業の将来的な可能性のひとつとして、米由来のバイオ燃料の製造や、付加価値の高い加工食品への挑戦などがあげられます。」

可能性を広げていくために、まずはしっかりと収穫量を上げ、着実に実績を積んでいくことが大切だ。 今はまだ、事業創造本部内でもこのプロジェクトに携わる人員は少ない。実証から事業化へ。事業規模を拡大していく。未来はまだまだ未知数である。しかし、その分挑戦のしがいもある。次年度の収穫はどうなるのか。楽しみでならない。

(掲載内容は、取材当時のものです。)

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