大村 幸一郎

RESEARCHERS

原子力安全技術研究所

大村 幸一郎

KOUICHIROU OOMURA

PROFILE

所属 原子力安全技術研究所
研究・専門分野 原子力工学(金属腐食、電気化学、水化学)
学位 修士(工学)名古屋大学
博士(工学)東北大学(注)現在在学中。2025年8月取得予定。
趣味・好きなこと ランニング、クラフトビール飲み比べ、オリエンテーリング、キャンプ、ロードバイク、音楽鑑賞、ゴルフ、サウナなど
研究キーワード 金属腐食、すき間腐食、孔食、電気化学、有限要素法解析(COMSOL)、ウルトラファインバブル、原子力

(注)2024年12月取材時

大村さんの専門分野を教えてください。

専門分野は、金属の腐食とそれに関連する電気化学や水化学です。実は、修士課程までは放射線計測の研究室に所属していて、そこで少しマイナーなレーザーの開発に関する研究をしていました。なので、今の専門分野は学生時代の研究とは少し異なるんですよね。
私が現在の専門分野に興味を持ったのは、入社後1年半、発電所の保修に関わる業務を担当したことがきっかけです。
屋外に設置されている原子炉機器冷却海水系という設備の保修を担当し、点検では、腐食箇所の確認に多くの時間を費やしました。腐食が進むと部品の交換や塗装が必要になり、そのたびに保修費用がかかります。「腐食がなければ、こんな手間はかからないのに」と思ったのが始まりです。

大村さん

もともと原子力に興味があったのでしょうか。

いえ、高校まではどちらかというと機械航空や宇宙開発への興味があったんですよね。ただ、縁あって進学した大学では、その次に興味があった量子エネルギー工学を志望し、原子力を学ぶことになったんです。
入学当時は福島第一原子力発電所事故直後だったこともあり、原子力に対する世間の意見は厳しいものでした。その中でも、実際に福島第一原子力発電所を見学したり、原子力や日本のエネルギー事情を詳しく知るうちに、原子力に対する課題を自分の力で何とかしたいと思う気持ちが芽生えたんです。

そんな経緯もあり、地元の静岡県にある中部電力の浜岡原子力発電所を自分の力で再稼働させたいという気持ちで入社を希望しました。
直接的ではありませんが、現在の私の研究は、電力の安定供給を支えていくうえで、縁の下の力持ちになるような仕事であると考えています。自分の力が少しでも会社の役に立てばと考えています。

現在の研究について、詳しく教えてください。

大村さん

入社3年目に研究所へ配属となり、浜岡原子力発電所5号機の海水混入事象(2011年5月発生)に対応するため、腐食や塩分除去に関する研究を中心に行っています。
具体的には、原子炉内で発生するすき間腐食や孔食(注)の発生・進展のメカニズム、そして混入した塩分を除去する方法(超音波加振、ウルトラファインバブル、化学薬剤など)について研究しています。

特に、現在進めている博士課程の研究では、すき間腐食の発生や進展挙動について、実験と数値解析で評価し、それを原子力設備の実機へ実装するといった研究をしています。

実機を模擬して腐食を評価するには、モックアップ、つまり実物模型を製作して5号機の原子炉と同様の状況を再現して試験することが非常に重要なのですが、これには多くの時間と費用がかかるのが課題です。
そこで、腐食がどのように発生し進展するのかを理解し、数値解析で再現できれば、その結果を実際の設備の条件やサイズに合わせて拡張することができます。これにより、コストのかかる複雑な形状のモックアップを作らずに、数値解析でシミュレーションすることが可能になります。それを目指し、現在、有限要素法を用いた「COMSOL」というシミュレーションソフトを使って、腐食の発生や進展を解析しています。
この技術が確立できれば、設備の評価にかかる時間や費用を大幅に削減できると考えています。
なお、こうした研究成果は、有識者による社内委員会である「浜岡原子力発電所5号機海水流入に係る設備健全性評価検討委員会」より、都度、ご意見をいただきながら実装していく予定です。

このように、博士課程での専門的な研究を通じて培った知識や研究遂行能力を活かし、金属腐食の専門的な研究に専念することで5号機の再稼働に貢献していきたいと思います。また一方で、現場の設備に関する短期的なニーズにも応えるよう、幅広い研究を行っています。
具体的には、設備点検コスト低減のための点検周期延長に向けた設備劣化評価手法の検討や、定期的に点検・交換を行う消耗品の余寿命評価などですね。現場のニーズに柔軟に対応し、効率的な運用をサポートしています。

(注)孔食:金属の表面にできる小さな穴による腐食

大村さんの研究における今後の目標や夢を教えてください。

これまでの日本国内の腐食コスト調査によると、電力分野の腐食コストは年間3,900億円、産業全体としては数兆円にもおよびます。これは、なんと国民総所得(GNI)の1%程度にも相当するんです。
腐食コストとは、設備の腐食対策費のことを指すのですが、発電所は海岸付近に立地することが多いので、塩分などによる腐食対策に多くの費用がかかるのが課題になっています。

この費用は腐食に強い材料を安価に導入したり、腐食の発生や進展を抑制する方法を見極めることで、もっと最適化できると考えています。
現在の私の研究分野では、腐食のメカニズムを理解してその進展を評価することが中心ですが、これからは新しい技術の導入や多角的な視点からアプローチすることで効果的な解決策を見出だし、コスト削減を目指したいと思っています。例えば、塗るだけで点検がいらなくなるような腐食防止塗料や、安価で点検不要な金属材料の開発ができたらいいなと思います。

まずは5号機の再稼働が最優先ですが、将来的には自分の専門分野を中心に活躍しながら、腐食の知識に加えて身につけた電気化学や数値解析の手法を、他の分野にも活かしたいです。大学で学んだレーザーや放射線に関する知識も含めて、幅広い分野で活躍できる存在になりたいですね。そうして、会社や社会に少しでも貢献できたら嬉しいです。

大村さん

日本原子力学会 水化学部会 第8回サマーセミナー ポスターセッション(優秀賞受賞)
「ステンレス鋼すき間内に浸入した塩化物イオンの拡散挙動及びすき間腐食の温度依存性について」

研究内容(ポスター)

特許等

放射性廃棄物の固化処理方法、放射性廃棄物固化体、及び、放射性廃棄物固化体の埋設方法(特開2023-36287)

所属学会

日本原子力学会

日本保全学会

腐食防食学会

American Nuclear Society

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