RESEARCHERS
先端技術応用研究所
棚橋 尚貴
TANAHASHI NAOKI
PROFILE
所属 | 先端技術応用研究所 |
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研究・専門分野 | (研究)
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学位 | 修士(工学)名古屋大学 博士(工学)名古屋大学 (注)中部電力入社後に取得 |
趣味・好きなこと | ラーメン店巡り、犬・うさぎの散歩、野球(するのも観るのも)、日本酒 |
研究キーワード | 省エネルギー、カーボンニュートラル、生産プロセス管理、画像解析、工業炉、水素、アンモニア、産業IoT、DX、エネルギーマネジメント、DR(デマンドレスポンス) |
(注)2024年5月取材時
棚橋さんの専門分野を教えてください。
大学で学んだ材料プロセス工学や反応工学、エネルギー理工学を活用した「産業分野の加熱技術の改善・効率化」や「生産工程の最適化」を専門としています。
大学研究時、鉄鋼業などの「高熱環境下でエネルギーを多量に消費する製造プロセス」を学び、入社後のお客さま工場の現場調査などの機会で、各種製造業における作業環境の過酷さも目の当たりにしたことで、次第にエネルギーロスの低減や地球温暖化防止、作業環境の改善に寄与する技術の研究開発に取り組みたいという思いが強くなっていきました。
どんな研究に取り組んでいるのでしょうか。
最近では、産業分野における「操業の改善・最適化」や「脱炭素に資する工業炉の開発」をメインに取り組んでいます。
もともと、産業分野のお客さまを対象として製造現場の生産性向上のため無駄な作業やコストの削減に寄与する機器・技術の開発に長く取り組んできました。その当時は「この機器の効率を上げたい」「加熱時のエネルギーロスをどうにかしたい」といった「機器単体」でのお悩み解決が多くを占めていましたね。
変化が訪れたのは、東日本大震災や働き方改革などをきっかけに、「省エネ」「工程改善」へのお客さまニーズが急速に高まったこと。その実現には根本的解決も必要なため、改善や効率化の対象を「機器単体」から「生産工程」に広げ、中部電力の技術営業部門と当研究所が一体となって産業分野のお客さまの生産ラインに入り込み、お客さまとともに課題を解決するような機器・システムを開発し、ご提案するようになりました(開発一体型ソリューション)。
その成果として、溶解炉の省エネ操業支援システムや高熱環境下における放射測温システムなどを開発し、導入いただいたお客さまから喜びの声もいただきました。
また、「脱炭素化に資する工業炉」として、電気とガスのハイブリッド熱処理炉や水素・アンモニアの混焼・専焼技術の開発にも注力しており、お客さま設備の脱炭素化実現を目指しています。
今後の夢や目標について教えてください。
将来的には、IoT・ビッグデータや各種センシング技術をフル活用して、製造工程全体の改善・最適化やエネルギーマネージメントなどの技術開発に携わり、中部電力グループだからこそ実現し得る開発一体型ソリューションを進めていきたいですね。
並行して、水素・アンモニアと電気との併用や選択利用(電力供給が十分な際には電気を、電力不足時には水素・アンモニアの燃焼を利用)など、脱炭素社会実現に向けたさまざまな加熱技術の開発を進め、社会実装していきたいと考えています。
開発システムを導入いただいたお客さまインタビュー
高熱環境下における放射測温システム(注)を導入いただいた中央可鍛工業(株)塩満さま、小出さま
(注)600~1600℃の高熱環境下において、カメラを用いて高精度の測温が可能な非接触式の放射測温システム。2024年3月に本格導入。同システムは、2024年度上期を目途に中部電力ミライズにて販売開始予定。
左から中央可鍛工業(株)塩満さま、小出さま、中部電力 棚橋さん
導入されたきっかけは何だったのでしょうか。
(左から)棚橋さん、塩満さま
従来の測温方法。直接鉄棒をあてて計測。
塩満さま:約4年前、鋳造工程での温度管理施策として、中部電力 販売カンパニー(現:中部電力ミライズ)さんを通じて実証実験の提案をいただいたことがきっかけです。
型に金属を流し込んで固める鋳造工程では、注ぐ金属の温度が低いとうまく型に行き渡らず不良品になり、反対に温度が高くなりすぎても別の不良が発生しますし、熱するコストも余分にかかります。そのため、注ぐ金属の温度管理が重要なのですが、従来の測定方法(注)は過酷であり、危険も伴うことが悩みの種でした。
棚橋さんとは長い付き合いなので、そうした状況をよくご存じでいてくれて。この悩みを解決できるなら「是非」とお受けしました。
(注)1.2mの鉄棒に測温器(熱電対)を付け、1,300度を超える金属の温度を測定
システム完成までの道のりは。
小出さま:試行錯誤の繰り返しでしたね。
最初にぶつかった壁は「測定用カメラの撮影位置」でした。弊社工場では、金属を 注ぐ位置を型の形状や大きさによって左右にずらしています。
その10cm程度のずれを考慮してどこにカメラを設置するか、熱い中、三脚を持ち込み検証を繰り返しました。
棚橋さん:計測時間が短いといった課題もありましたよね。
金属を注ぐ間隔が想定以上に短くて、7秒に1回の頻度で送られてくるんです。この短い時間で、いかに測温精度を高めるかに頭を悩ませましたね。なんとか納得できる形ができたと思ったら、今度は注ぐ際の金属しぶきの影響で測定温度がブレるという課題がでてきた。さぁ次はどうするかと、1つクリアするとまた次の課題が出てくるといった繰り返しでした。
(左から)塩満さま、小出さま
小出さま:一緒に現場の状況を見て、膝を突き合わせて課題をひとつひとつ苦労して解決した結果、弊社にベストマッチした高精度の温度計を手に入れることができました。 品質管理やコスト減、更には労働環境の改善にもなるシステムを開発してくれたこと、本当にありがたく思っています。
棚橋さん:そう言っていただけると感無量です。中部電力としても、実際の工場で検証ができたことでノウハウを得たほか、製品の品質や諸々の条件に対応し得る柔軟性も向上しました。今回の工程以外でもご相談をいただいていますし、今後もこうした改善を一緒に継続して取り組んでいきたいですね。
開発システムで自動計測する様子
計測結果を検証する様子
(左から中部電力ミライズ山本さん、棚橋さん、小出さま)
今後の取り組みや展望を教えてください。
塩満さま:工場内でも、まだまだシステム化、DX化を進めたい箇所が複数あり、すでにそちらの相談や検証も進めています。
今後も中部電力さん、中部電力ミライズさんと「三人四脚」で進めていければありがたいですね。
技術報告(技術開発ニュース)
研究内容(ポスター)
特許
溶解工程自動作成装置および溶解工程自動作成方法(特許第5624489号)
切換弁及びガス処理システム(特許第5629220号)
取鍋予熱装置および取鍋予熱方法(特許第6733887号)
溶解炉の操業計画作成装置、そのためのコンピュータプログラム、プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体、及び溶解炉の操業計画作成方法(特許第6869711号)
バーナ及びその制御装置(特許第7181519号)
熱処理システム(特許第7381002号)
容積算出装置及び重量算出装置(特許第7507021号)
所属学会
日本鋳造工学会
日本熱処理技術協会
関連項目
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