かいぜん活動事例

事例1 浜岡原子力発電所1・2号機の設備解体撤去工事の効率化【浜岡原子力発電所】

水圧制御ユニット解体撤去工事における撤去物運搬のかいぜんに取り組み、作業時間を削減。

  • 運搬しやすい経路の確保
  • 解体撤去物の仮置きのムダを削減
  • 運搬の小分け化

浜岡原子力発電所1・2号機では、廃止措置に伴う各種設備の解体撤去工事が本格化しており、工事をより一層安全かつ効率的に遂行するため、精力的にかいぜん活動に取り組んでいます。

主なかいぜん事項

  1. 運搬経路にある二重扉の敷居を越えるために設置したスロープ間を水平につなぐ鉄板の設置
    (二重扉のどちらかが閉まっている状態で運用していたが、1・2号機の全ての燃料搬出を終えたため、両扉とも開放した状態に変更して作業効率を向上)
  2. 重量物運搬時に横ずれしないスロープへの改良

    1 運搬経路にある二重扉の敷居を越えるために設置したスロープ間を水平につなぐ鉄板の設置(二重扉のどちらかが閉まっている状態で運用していたが、1・2号機の燃料搬出を終えたため、両扉とも開放した状態に変更して作業効率を向上)の画像
    2 重量物運搬時に横ずれしないスロープへの改良の画像
  3. 運搬通路の拡張(運搬ボックスと要員2名が通ることができる幅を確保)

    3 運搬通路の拡張(運搬ボックスと要員2名が通ることができる幅を確保)の画像
  4. 4  解体~保管までの作業を一連の流れで行うことにより仮置きのムダを削減
  5. 解体撤去物運搬の小分け化による運搬要員の削減(800kgを4名で運搬→200㎏を2名に変更し、作業の手待ちを無くすることで効率化)

    5 解体撤去物運搬の小分け化による運搬要員の削減(800kgを4名で運搬→200㎏を2名に変更し、作業の手待ちを無くすことで効率化)の画像

現場レポート

宮崎(浜岡原子力発電所 廃止措置部 廃止措置工事課)の写真
宮崎(浜岡原子力発電所 廃止措置部 廃止措置工事課)

まずは、現場で、自分の目で、

浜岡原子力発電所1・2号機の廃止措置工事のうち、水圧制御ユニット解体撤去工事には、多くの繰り返し作業が存在する。そのため、TPS(トヨタ生産方式)による「かいぜん」が効果的であるとの考えのもと、かいぜん活動がスタートした。

しかし、取り組み当初から順風満帆に活動が進んだわけでなかった。作業管理担当の宮崎は当時をこう振り返る。

「トヨタのような車を組み立てる工場と、解体工事の現場は、現場の環境がまったく異なるので、TPSによるかいぜんを行うことができるのかどうか不安でした。また、内川特任アドバイザーの指導内容も初めはピンと来ないことが多く、理解するのに苦労しました。」

宮崎がまず取り組んだのは、作業の工程を見える化するために、連日現場に張り付いて作業を観察し、作業の各工程の時間を測定する作業だった。

「自分の目で現場を観察し、現場の流れ(プロセス)を細分化して見える化することがかいぜんへの第一歩です。『自分の目で見る』という部分がポイントで、現場の作業時間だけを拾い上げてもムリ・ムダは見えてきません。作業をただ観察するのではなく、自分でも実際に解体撤去物を運搬するなどして、作業員さんの目線に立つことを大切にしました。」

浜岡原子力発電所での現場検討の様子(写真右が宮崎)
浜岡原子力発電所での現場検討の様子(写真右が宮崎)

開放された二重扉

解体から運搬までの作業時間を1/3にするという高い目標に向けて、解体撤去物運搬の効率的な動線を確保する必要があった。検討の結果、「原子炉建屋に設置されている二重扉の開放」という従来の社内常識にとらわれないかいぜんに取り組むことになった。

原子炉建屋は建屋内の気圧を外部より低くしてあり、不測の事態の際に外部に放射性物質等が漏れない構造となっている。この構造を支えているのが二重扉であり、常に一方の扉が閉まっている状態でなければならなかった。このため、手間のかかる開閉作業が必要であり、作業効率を低下させる大きな要因になっていた。(注)

既に1・2号機の原子炉建屋から全ての燃料の搬出を終えていたため、二重扉を開放しても原子力安全に影響はない状態となっている。

一方で、二重扉の開放には大きな課題があった。建屋の空調のバランスが崩れることにより、他の部屋の扉が開け閉めできなくなる事態や、床面の排水口から廃液が逆流してしまう恐れがあったのだ。

いわばピンチの場面ではあったが、既に課内で目標が共有され、作業を効率化するためには何が必要なのかを課内一丸となって議論する土壌が出来上がっていた。そのため、課員総出でこうした事態に至る要因一つ一つの確認とその対策についての入念な検討を行い、最終的に課題を克服し、二重扉の開放を実施することができた。

(注)片方の扉が閉まっている状態でもう一方の扉を開け、その扉を閉めた後にもう一方の扉を開けるという手間のかかる開閉作業が必要。

思い込みからの脱却

従来、解体撤去物を運搬する際、「まとめて一度に大量に運搬する方が効率的である」というのが社内の常識であった。しかし、これを見直し、小分けで運搬するよう改めるとともに、さらにかいぜんを加えた。具体的には、運搬箱の小型化に加え、運搬ルートの見直しや運搬通路幅の確保により、最短ルートで効率的に運搬できるようにした。宮崎は運搬について指導されたときの思いを率直にこう語っている。

「解体撤去物を小分けで運搬するよう指導を受けたとき、意外に思いました。小分けで実施すると、運搬回数が増えて、非効率になってしまうと感じたからです。しかし、実際に運搬を小分けにすると、狭い建屋内での運搬がスムーズになったり、保管先での取り回しが良くなったりと、気が付かなかったメリットが多くありました。」

かいぜん活動を振り返って

これまでのかいぜん活動を振り返る宮崎は、従来の社内常識にとらわれずにプロセスの必然性を見つめ直すことの大切さを語っている。

「かいぜん検討会の中で、内川特任アドバイザーから『中部電力は他の業界を知らなすぎる』とズバリ指摘を受けました。原子力という業界は他業種と交流する機会が少ないこともあり、視野が狭くなっていたのかもしれません。かいぜんは検討会は、正に他業種の目からアドバイスをいただける場なので、指導事項は全て宝物だと思います。

特に、『品質はチェックで担保するのではなく、プロセスで担保する』という言葉が印象に残っています。原子力はチェックで品質を確保している部分があり、記録が山のようにできてしまいます。しかし、品質の本質はプロセスにあるという話は良い話だと思いました。」

これまで、膨大なチェック作業や記録の保管に多大な労力を掛けてきたが、今後、かいぜん活動を進めて作業プロセスを磨き込み、誤りが発生しないようにできれば、品質が確保でき、チェック作業の業務負担が軽減していく可能性があるのだ。かいぜん活動を通じて得た貴重な経験と自信は、宮崎を始めとした廃止措置工事課、そして浜岡原子力発電所の将来に向けての大きな財産となったようだ。

最後に、宮崎の行動姿勢の変化と今後のかいぜん活動に向けた思いを紹介する。

「かいぜん活動に取り組んだことで、自分自身の視野が広がり、他の業界のやり方にも目を向けて、検討するようになりました。他業務においてもTPSを意識して、作業を表に書き出して見える化し、協力会社とかいぜん項目の検討も行うようになりました。

また、課内では、会議や打ち合わせの場で、業務を見える化したり、かいぜんすることが求められる時に、自然と「TPS」という言葉が出てくるようになり、活発な議論につながっています。」

「まずはやってみること、チャレンジすることが大切です。ムリ・ムラ・ムダはたくさんあるので、他業務においても継続的にかいぜん活動を実施していきたいです。」

かいぜん活動は緒に就いたばかりである。さらなるかいぜんに向けた挑戦は続く。

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