かいぜん活動事例

事例2 奥矢作第一・第二発電所水路抜水操作の効率化【再生可能エネルギーカンパニー】

水路の抜水作業のかいぜんに取り組み、現場の監視員や調整作業員の削減を実現。
332人・時間 ⇒ 103人・時間(69%削減)

水路の維持管理のため、定期的に水路内部の点検が必要となります。点検前の水路の抜水を行う際、設備の振動や異音の監視、バルブ調整等のため現場に作業員を配置して、作業を行っていました。ICT機器の活用、排水経路の見直し、機器操作項目の精査により、現場の作業員をなくし、省人化を実現しました。

主なかいぜん事項

  1. 抜水時における現地監視員のICT化による削減

    1 抜水時における現地監視員のICT化による削減の画像
  2. 配管改造による放水路からの抜水の自働化

    2 配管改造による放水路からの抜水の自働化の画像
  3. 機器操作項目の精査

    1 安全上絶対に必要な操作のみを抽出

    2 作業内容,作業期間から補機停止範囲を最小化

    3 機器操作項目の精査の画像

現場レポート

築山(愛知水力センター 奥矢作発電管理所(当時))の写真
築山(愛知水力センター 奥矢作発電管理所(当時))
松岡(愛知水力センター 奥矢作発電管理所)の写真
松岡(愛知水力センター 奥矢作発電管理所)

生産性3倍増に向けて

水力発電所では、定期的に水路の水を全部抜いて、内部の点検を実施している。

奥矢作発電管理所が管轄する奥矢作第一・第二水力発電所における全水路の抜水操作(以下「抜水操作」)では、操作場所が複数で、移動に1時間以上かかる所もあり、広範囲に及ぶため、多くの操作要員が昼夜3日間という長丁場の作業を行っており、課題となっていた。

目標を「生産性3倍増」と設定したものの、点検実施時期が決まっているため、かいぜんのアイディアの検討期間は実質的に半年しかなく、しかも抜水操作本番で失敗は許されない状況の中、即効果が現れるかいぜんにしなければ…という重圧に、当初はメンバーの誰もが「非常に高い目標であり、達成は無理」と思っていた。 同時に、目標達成にチャレンジするには従来のやり方を抜本的に変えなくてはならないとも感じていた。

当初、「抜水操作」の手順は、過去に積み重ねてきた実績を踏まえたやり方であるため、大幅な作業の削減・変更は困難という意見もあった。

リーダーの築山は、従来のやり方を抜本的に変えるには、➀固定観念を捨てて気づきを芽生えさせる ②管理職や経験豊富なベテランの見識と、若手の意見や部門の壁を越えた斬新なアイディアをうまく融合させるため、互いに会話し、作業の必要性を整理する必要があると感じた。

また、メンバー全員で会話し、アイディアを出しやすい雰囲気作りが成功の鍵であると考え、自ら疑問を投げかけたり、アイディアを提案するといった「改善する風土」を育てるため、次のルールを決めて取り組みを進めることとした。

『ディスカッションにおいて提案されたかいぜん案は、これまでの経験上から難しいと思っても、頭ごなしに反対せず、メンバー全員でリスクを超えるため何が障害になっているのかを掘り下げて検討する。』

まずは、見える化から

築山は、「生産性3倍増」は、抜本的なかいぜん策を複合的に組み合わせないと達成できないと考え、まず、業務全体の見える化をして、全体を俯瞰することが必要と考えた。抜水操作は発電設備に関わる操作ではあるものの、電気だけでなく土木に関わる業務も多く、全工程の詳細を全て把握しているメンバーはいなかったのだ。築山をはじめ、メンバーは、現場に足繁く通って現地現物を確認し、業務を徹底的に洗い出し、知識を共有化した。

また、並行して、TPSかいぜんの基本的な考え方をはじめ、かいぜん策に少しでも役立ちそうな他部署の動向やかいぜんのツールとして使えそうなICT機器等の情報収集、通信部門の協力を得てのICT体験会の開催や通信網の整備にも力を入れた。

かいぜん策の検討を進める中、築山は、他部署から聞いた内川特任アドバイザーの指導内容に、「自分たちのかいぜん案の方向性は間違っていない」と確信めいたものを感じた。

「監視は値打ちを生まないので、人に監視をさせてはいけない。」

「操作は常に1人でできるように考えること。2人操作を否定する力を身に着けること。」

築山が画策していた「人による監視を最新のICT機器に置き換え、画像+音声による相互通信を確立できれば、『安全』かつ『ヒューマンエラー防止』を担保しつつ、現地での要員を大幅に減らせるのではないか」という考えに通じるものがあったのだ。しかし、これだけでは目標の生産性3倍増までは到底達することはできない。

さらなるかいぜんに向けて排水の自動化策を模索しつつも、良いアイディアが見つからない中、経験豊富なベテランから、実績に捉われない斬新なアイディアが出された。それは、「排水ルートを変更したうえで、給水専用に設置されているポンプを排水にも活用する」という大胆なものであり、「目から鱗」の嬉しい提案であった。

この提案を実現するための予算を何とか工面し、目標達成まであと一歩のところまでたどりつく目途が立った。

新たな操作方法への挑戦

築山からリーダーの重責を引き継いだ松岡ら、メンバーは、机上で検討したかいぜん策の実施に向けて、より具体的な作業レベルの検討を進めていった。

しかし、目標の「生産性3倍増」にはなかなか届かない。

また、従来のやり方を抜本的に変えることによって、設備や安全面に新たなリスクが発生する可能性があり、こうしたリスクへの対応にも苦慮していた。いつしか、メンバー内に閉塞感が漂い始めようとしていた。

松岡は、内川特任アドバイザーの指導内容を拠りどころに検討を進めることにした。

「やった方が良い操作というものはない。やらなくてはいけない操作、やってはいけない操作があるだけである。」

「自分たちの仕事のうち8割は要らないという発想で取り組むこと。そうすると本物が見つかる。」

これらのアドバイスから、業務の本質に立ち返り、「安全上絶対に必要な操作の絞り込み」と「作業内容や期間に応じて設備停止範囲を最小化して操作項目を大幅に削減する」ために操作の検討会を繰り返し、必要最小限の操作に絞り込んでいった。

さらに、かいぜん策を安全に実施するには、具体的内容を関係者全員に納得してもらう必要があり、長年親しんだ従来のやり方から切り替えてもらうために、粘り強く説明を重ねた。

また、机上検討でかいぜん効果が確認できても、抜水操作本番で結果がでなければ、これまでの全ての検討が水の泡になるため、失敗は許されない。そこで、実際に現地にICT機器を手配し、本番と同じ手順・操作、連絡方法でリハーサルを実施し、細かな問題点を1つ1つクリアしていった。

結実

かいぜん案実現に向けた検討を積み重ね、いよいよ抜水操作本番の日を迎えることとなった。机上検討では設備・安全面で全く問題がないことを確認していたものの、メンバーの誰もが、いざ実際の設備での本番を前に、かいぜんした新しい手法を導入することは、本当に大丈夫だろうか、トラブルなく計画どおりに抜水操作は進行するのかという不安も抱いていた。

しかし、不安は杞憂に終わった。

メンバー全員で取り組んだかいぜん後の効率的なやり方で何ら問題なく抜水操作を完了することができたのだ。松岡は、皆のここまでの苦労が見事に結実したことに感動を覚えた。 かいぜん前の従来の抜水操作を経験したことがある人から、「今回の抜水操作は非常に楽であった」と言われたことも松岡にはまた嬉しかった。

かいぜん活動を振り返って

松岡は、ここまでのかいぜん活動をこう振り返っている。 「今、振り返ると、内川特任アドバイザーは、従来のやり方を否定するところからアドバイスするので、初めは同感できない部分もあったが、かいぜんについて考えるきっかけ作りをしていただいたのだと感じる。 そのおかげで、従来の操作方法、目的、時間、人員を十分に分析し、かいぜんに向け前向きに検討し続けた結果、良いかいぜんが実現できたのだと思う。

かいぜん活動を通じて、目標達成に向け、メンバー全員でかいぜん策を考え、挑戦し続ければ達成できることを学んだことは、非常に良い経験となった。私自身も、かいぜんに取り組んだことで、目標を達成するために、メンバーの意見を聞き・とりまとめ・実施するという「チーム力」を発揮させる能力が身についた。

また、奥矢作発電管理所全体としても、従来からの実績や経験に担保されたやり方を守るのではなく、新しい技術や知見によりかいぜんしていくことの価値について理解が広まり、意識が変わったと手応えを感じている。」

さらなる高みへ

最後に今後の取り組みについて、松岡に尋ねたところ、頼もしい回答が返ってきた。

「抜水操作は、さらにかいぜんすべきことがあるため継続して検討していく。また、他の水力発電所に今回の操作方法を水平展開していく。今回の取り組みで、既存のやり方に囚われない「現状否定」の目線で業務を見つめなおすと、気づかなかったかいぜんを発見できることがわかったので、同様な目線で、次のかいぜんに活かしたい。

今回、内川顧問から学んだ『かいぜんに重要なのは変える力であり、手段をニーズにつなげるのは各個人の知見や知識である。そのためには、日頃の視野拡大や知識向上が必要である。』を教訓にして、他の業務においても、目標を高く持ち、常に考える意識を継続させたい。」

今後のかいぜんの取り組みがさらなる高みへと拡がっていくことを期待したい。

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